採用ノウハウ

〈外国人採用の鉄則〉実際の給与・職務内容と事前説明の不一致は禁物!

「給料や仕事内容が事前に聞いていた話と違う」として外国人材が大きな不満を抱くケースがあります。技能実習制度では原則として転籍できないので、それでもがまんして働く人も多かったのですが、特定技能や今後の育成就労、技術・人文知識・国際業務の外国人の場合、早期離職の大きな原因になります。

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ポイント解説

在留資格を問わず外国人労働者が「事前に聞いた話と実際の給料や仕事内容が違う」と不満を持つケースがあります。

手取り給料が事前説明(理解)より少ない:特に「残業代が聞いていた額より少ない」という不満が多いです。例えば「毎月の残業代が約6万円と聞いていたのに、実際は6万円の残業代は年1、2回の繁忙期のみで、通常は2、3万円しかない」というケースです。これは早期離職や失踪の大きな原因になります。

仕事内容が事前説明(理解)と違う:例えば「ビニルハウス内での仕事が中心だと聞いていたのに、実際に来日してみると、ハウス内での労働はわずかで、ほとんどが屋外での農作業」というようなケースです。その場合、特定技能なら早期離職の可能性が増し、技能実習なら修了後に特定技能で残ってくれる可能性は低くなります。

労働条件の食い違いの背景:

  • 監理団体からの情報に問題
  • 海外の人材会社が伝える情報に問題
  • ブローカーの虚偽説明など

特定技能でも技能実習と事情は同じ:特定技能の求人であっても、技能実習と似たようなプロセスで候補者を集めますので、給料や仕事内容に関する情報が実際とは違って伝えられる可能性があることは同じです。

「事前説明や理解と違う」をなくすには:

  • 求人や面接で分かりやすく短い言葉を多用する。
  • 給料や仕事内容について書面を作成し、本人から確認の署名をもらう。
  • 実際の残業代を求人票などに記載する。
  • 仕事内容については写真や動画を活用する。

◆このページの内容

NGその1:手取り給料が事前説明(理解)より少ない

手取り給料に関して「約束と違う」が多い

複数の人材業者やコンサルタント会社によると、日本で働く外国人からよく相談される悩み・不満の代表格として「就職前に受けた説明と実際の給料が違う」という訴えがあります。例えば、「毎月の残業代が約6万円と聞いていたのに、実際に働いてみると、6万円の残業代があるのは年2、3回の繁忙期のみで、通常は2、3万円しかない」といったケースです。

技能実習生や特定技能外国人には、残業が多くてもよいから手取り給料(税金や社会保険料などを引いた額)をなるべくたくさんもらいたいという人が多いです。

したがって、手取り給料が事前の説明や理解より大幅に低い場合、大きな不満になります。給料の低さに対する不満が第一ですが、「だまされた」という不信感も加わって不満が増幅されます。

早期離職や失踪の原因に

この場合、特定技能外国人なら早期離職・転職の可能性を免れず、技能実習生の場合、仮に予定期間を満了したとしても、その後特定技能外国人として残留してくれる可能性は低くなります。

もちろん、その職場で長く働くか早く離職するかの判断は総合的なものであり、事前に聞いていた給料より低いというだけで短絡的に早期離職するとは限りません。

しかし、大きな不満になることは確実で、残業代を含めた手取り給料の総額が思っていたより低い場合、他の要因と合わさって早期離職や失踪につながる可能性が高まります。

NGその2:仕事内容が事前説明(理解)と違う

仕事内容の不一致

特定技能外国人や技能実習生が職場に対して抱く不満でほかに多いのは、来日前に聞いていた仕事内容と実際の仕事内容が違うという事柄です。例えば、「ビニルハウス内での仕事が中心だと聞いていたのに、実際に働き始めてみると、ハウス内での労働はわずかで、ほとんどが炎天下や寒風の中での農作業だった」というようなケースです。これも早期離職の原因になります。

技能実習生の場合、事前に聞かされた仕事内容と違っても、転籍の手続きが簡単ではありませんし、そもそも転籍の要件についてくわしく知らない場合も多いため、黙って仕事を続けるケースも多々あります。

しかし、彼らの不信や不満は大きく、きっかけや誘いがあれば失踪してしまうケースも少なくありません。また、失踪せずに実習期間を満了した場合でも、特定技能に移行して同じ職場に残留してくれる可能性は低くなります

実例:「寿司を作る仕事」のはずが……

筆者が対面で取材したベトナム人女性は愛知県の水産加工工場で3年間、技能実習をしました。ハノイの送出機関では「寿司を作る仕事」と説明されましたが、日本に来てみたら違っていました。

実際は、さんまの蒲焼きやいわしの生姜煮(しょうがに)などを作る仕事で、彼女は魚を解凍したり煮たり焼いたりする作業を担当しました。冷凍庫から魚をたくさん取り出してかごに入れて運び、まな板にのせて包丁で魚の頭を切り落とす仕事もありました。かごで魚を運ぶ作業はとても重かったそうです。

彼女は働き始めた最初の日に「だまされた」と思い、寮に帰ってからお母さんに電話し、悔しくて一緒に泣いたそうです。翌日、同僚たちと一緒に送出機関に電話しましたが、担当者は何食わぬ口調で、「仕事内容が違いましたか?でも、もう日本に行ったのだから、頑張ってください」と答えるのみでした。

しかし、6,000 USDも使って日本に来たので、今さらベトナムには帰れません。あきらめて働くしかありませんでした。

彼女の場合、職場にたくさんのベトナム人がおり、お互いに仲が良く、休みの日によく一緒に遊んだ▽愛知県のベトナム人コミュニティにも入り、交流が多かった▽手取り給料は地元の同じ職種の実習生たちの平均だった――といった状況があったため、失踪せず予定の3年間をこの職場で満了しました。しかし、「だまされた」という気持ちは最後まで消えなかったそうです。

実例:仕事内容の違いが失踪につながったケース

これも筆者が対面で取材した別の実習生の話です。富山県に赴任したベトナム人男性は建築の技能実習を始めました。来日前の説明では、最初の1年間は、工場で機械を使って鉄筋を折り曲げ、針金で束ねて運ぶ仕事で、2年目と3年目は建築現場で働くことになっていました。

ところが、工場での仕事は3カ月間だけで、内容が分からない日本語の契約書(ベトナム語での説明なし)に署名させられて神奈川県に転勤し、新宿の超高層ビル建築現場で働くことになりました。

その1カ月後、この男性は仲間と2人で失踪しました。失踪の直接の理由は「きつい仕事内容の割に手取り給料が極端に低かったこと」や「日本人3人は楽な仕事を担当し、実習生たちは主に鉄筋運びの重労働をさせられたこと」でした。

しかし、「1年間は屋根付きの場所で働ける」と聞いて来日したのに、4カ月目から炎天下での仕事になったことも大きな不満でした。

労働条件の食い違いの背景

募集の際に生じる誤解

外国人材が「給料や仕事内容が事前に聞いていた内容と違う」と感じるような事態が生じるのはなぜでしょうか? 

外国の人材会社(送出機関など)が日本から求人を受けて候補者を募集する際、求人票に残業代が書かれていない場合があります。また、残業代が書かれていても平均額ではない場合もあります。

日本から求人を受けた場合、人材会社は既にその会社で働いている自社卒業生や監理団体から残業代について聞き、応募者に伝えます。しかし、その内容が不正確な場合や、応募者を探すブローカーが故意に間違った情報を伝えて募集するケースがあります。

◆労働条件の食い違いが生じる背景の例

監理団体や登録支援機関からの情報に問題
残業代などについて、監理団体や登録支援機関が送出機関に正確な情報を伝えない場合があります。例えば、残業代が多い月の額だけを伝えるなどです。
海外の人材会社が伝える情報に問題
残業代などについて、海外の人材会社(送出機関など)が応募者に正確な情報を伝えない場合があります。故意に残業代が多い月の額だけを伝える場合もあれば、監理団体等から聞いた情報が不正確なために意図せず間違った情報を伝えてしまうこともあります。
ブローカーの虚偽説明など
応募者を集める際に人材会社が募集業者(ブローカー)を使うことがよくあります。ブローカーは、条件の悪い求人でもだれかを紹介して手数料を得たいので、残業代や仕事内容について故意に虚偽の説明をするケースも多く、問題になっています。

特定技能も技能実習も事情は同じ

「監理団体や送出機関を経由する際に求人情報が不正確になるようだが、特定技能なら監理団体も送出機関も使わないから大丈夫だろう」。そう思われる方もおられるかも知れません。

しかし、特定技能の場合も、技能実習と同じような人材会社が候補者を募集します。一つの人材会社が技能実習に関しては「送出機関」と呼ばれるだけで、特定技能や技人国の人材も募集・教育する場合が多いです。

その際、特定技能も技能実習と似たようなプロセスで候補者を集めますので、給料や仕事内容に関する情報が実際とは違って伝えられる可能性がある点は同じです。

国内人材を雇う場合も注意を

外国の人材会社を使う以外に、もともと日本にいる技人国や特定技能外国人を採用する場合もあります。その場合でも、「事前説明や認識と違う」という不満は多発しています。

特定技能の国内転職人材は、外国から来てもらう人材よりも離職率が高い傾向にありますので、労働条件の不一致の防止についても一層の注意が必要です。

対策:「事前説明や理解と違う」をなくすには

それでは、「事前に聞いた話と実際の給料や仕事内容が違う」というトラブルをなくすにはどうしたらよいでしょうか?

雇用条件を正確に伝えるために

実際の給料や仕事内容が事前の説明や認識と違うと、外国人労働者たちは大きな不満や不信感を持ちます。そこで、受け入れ事業者はこのような行き違いをなくす努力をしなければなりません。

それには、採用前に給料や仕事内容について分かりやすく説明することが大切です。例えば、次のような方法が効果的です。

分かりやすい日本語
・面接などで分かりやすく短い日本語を多用し、相手が誤解なく理解できるように工夫する。
※通訳を入れる場合でも、人材会社や送出機関のスタッフの通訳レベルは限られていますので、分かりやすく短い日本語の多用が大切です。
給料や仕事内容を書面で確認
・給料や仕事内容に関する書面を労働者の母国語で作成して読んでもらい、本人から確認の署名をもらう。
残業代を正確に伝える
・給料については、実際の平均的な残業代の額(幅を持たせてもよい)を求人票や上記の確認書類に記載する。
写真・動画を活用する
・仕事内容に関しては、写真や動画を用いて説明すると、正しい理解を絵やすくなります。募集や面接の際に動画を見せる事業者も増えています。

残業代については、監理団体や登録支援機関が、求人を出した会社の過去の賃金台帳から平均額を計算することができますし、一定期間の賃金台帳を海外の人材会社と共有する手法もあります。

そうすれば、応募者は給料に関する正確な情報を事前に知ることができますので、勤務開始後に事前認識との不一致が生じることはありません。

通訳に関する留意点

通訳を付けて採用面接を行う場合、通訳者が必ずしも正確な通訳をするとは限らないことに注意してください。通訳者の通訳能力や通訳の使い方に問題があるほか、通訳者が大事なことを意図的に誤訳するケースもあります。

そこで、待遇や職務内容など重要事項については、上記のように労働者本人の母国語で書面を作成して本人の署名をもらうなどの方法が効果的です。また、面接の通訳については、自社の通訳を使うか、監理団体・登録支援機関の通訳を使う方がベターです。

まとめ

このページのまとめ

労働条件に関して事前説明(理解)と実際との不一致が生じないようにしましょう。

◎手取り給料が事前説明(理解)より少ない
「残業代が事前の説明より少ない」という不満が多いです。早期離職や失踪の原因になります。

◎ 仕事内容が事前説明(理解)と違う
例えば「ビニルハウス内での仕事が中心だと聞いていたのに、実際に来日してみると、ほとんどが屋外での農作業」といったケースです。特定技能なら早期離職の可能性が増し、技能実習なら修了後に特定技能で残ってくれる可能性は低くなります。

◎労働条件の食い違いの背景

  • 監理団体や登録支援機関からの情報に問題
  • 海外の人材会社が伝える情報に問題
  • ブローカーの虚偽説明など

◎特定技能でも事情は同じ
特定技能の求人であっても、技能実習と似たようなプロセスで候補者を集めますので、給料や仕事内容に関する情報が実際と違って伝えられる可能性があることは同じです。

◎対策:「事前説明や理解と違う」をなくすには

  • 仕事内容については写真や動画を活用する。
  • 求人や面接で分かりやすく短い言葉を多用する。
  • 給料や仕事内容について書面を作成し、確認の署名をもらう。
  • 実際の残業代を求人票などに正しく記載する。

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