事例インタビュー

〈インタビュー〉技能実習生たちと共に歩んで十数年-縫製会社社長・小川浩平さん

メジャーリーガー大谷翔平さんの故郷・岩手県奥州市で縫製工場を経営する小川浩平さんは、かつての研修生時代から研修生・技能実習生を20年近く使ってきました。給料が特別高いわけでもないのに、先輩から後輩への口コミによってたくさんの技能実習候補者が応募する小川さんの会社。日本社員・社長と実習生との関わり方、生活サポート、実習生と地域社会との交流について話していいただきました。

◆このページの内容

研修生・技能実習生を雇用して17年

研修生・技能実習生と共に歩んで十数年

当社は現在、ベトナム3人、フィリピン7人の技能実習生を雇用しています。2008年に中国人の研修生3人(※)を採用したのが始まりです。その後、少しずつ増やしながら、ここ数年は毎年10人ぐらいの実習生が働いています。

かつての外国人研修・技能実習制度(通称・研修制度)では1年目は研修生(座学と実務研修)、2~3年目は技能実習生(在留資格は特定活動)として働きました。技能実習制度(在留資格は技能実習)は1993年に導入されました。

これまで失踪は1人だけです。彼女は技能実習1年目(技能実習1号)から2年目(2号)に移る際の技能検定に落ちて帰国しなければならなくなりました。そして、帰国予定の2日前に失踪しました。ほかに、病気で途中帰国した人も1人います。それ以外は皆さん、順調に実習を重ねています。

今の10人の中には、「技能実習を3年間修了したら、この会社で特定技能でさらに5年間働きたい」と言っている人も多くいます。2024年から「縫製」も特定技能に組み込まれましたからね。

今の実習生たちの口コミで募集は順調

2024年にもフィリピンで技能実習生の面接をしましたが、うちは決して高い給料の会社ではないのに、3人の募集に対して11人の応募がありました今うちで働いている実習生たちが送出機関の後輩たちに当社の良い評判を広めてくれるので、応募が集まりやすいのです。

実習生たちが日本に来る最大の目的はもちろんお金ですが、欲しいお金の額については個人差があります。その人が自分の働きに対して求める最低限の給料を提供できれば、あとは職場の居心地や生活の内容など総合的な納得感でこちらを評価してくれます。

これからは外国人の募集もだんだん難しくなっていくと予測されています。しかし、そういう時代でも安定的に応募を確保していくには、今働いてくれている外国人たちの満足感・納得感を高めていく必要があります。

当社がそれを十分にできているかどうかは分かりませんが、どのように努力しているかについてはこれからお話しします。

人材確保の確実性と定着の安定性

技能実習生は安い労働力ではない

現在、当社の社員は私を含めて27人で、そのうち10人が外国人技能実習生です。2008年に中国人の研修生3人を雇い始め、ほどなく7人前後まで増やしましたが、しだいに中国人が集まらなくなり、フィリピン人に変えました。

ただし、技能実習生は決して安い労働力ではありません。給料以外に、監理団体・送出機関に毎月支払う費用(監理費と送出管理費)や本人の来日・帰国時の渡航費などが追加でかかります。もし、高卒の日本人を雇うことができれば、そちらの方がコストは安く済みます。

そこで、当社の受注が減った時期に「やはり日本人だけでやってみよう」と考え、2017年に実習生の受け入れをいったんストップしました。

ハローワークでは人が集まらない

しかし、受注が盛り返して、人を増やそうとしたところ、日本人の人材確保が以前よりさらに難しくなっている現実に直面しました。

ハローワークに求人を3回出し、地元新聞にも広告を1回出しましたが、応募が1件もありませんでした。人材会社を使うと高額な紹介料がかかりますし、応募があっても、もし半年かそこらで離職されてしまうと、割に合いません。

技能実習生は確実で安定的な労働力

ハローワークや新聞広告は結果が出ず、人材会社は、高額の紹介料や早期離職の可能性を考えるとリスクが大きい。そのような状況で私は「管理コストがかかっても、確実に採用できて安定的に働いてくれる技能実習生がうちには合っている」と判断し、2018年に制度の利用を再開し、ベトナム人3人を採用しました。

その後、新型コロナ感染症の収束後はベトナム人が集まりにくくなったので、今はフィリピン人を中心に雇用しています。

中小企業の人材難は深刻

ちなみに、数年前に近くの縫製工場が閉鎖しました。その工場で約30人働いていたので、この人たちからの募集を期待してハローワークに再び求人を出しましたが、2人しか応募してくれませんでした。

今、ハローワークに求人を出しても、地方の中小企業には若い人がなかなか入ってきません。この辺りでは、大きな工業団地にある有名企業の工場に人が流れ、うちのような小さな会社にはなかなか人が回ってこないのです。

技能実習生がもたらす恩恵

若者は作業効率が良く、職場に活気も出る

技能実習生なら、毎月の監理費等はかかっても、ほぼ確実に採用できます。そして適正に処遇すれば、3年間安定的に働いてもらえますし、その後も特定技能で残ってもらえる可能性もあります。

その上、国内募集では決して来ないような若い人たちが来てくれます。若者は年配の人たちと比べて作業効率が格段に良いですし、若い人たちがいることで職場に活気が生まれます。

急な欠勤も少ない

また、実習生は冠婚葬祭や学校行事での欠勤も基本的にありません。うちのような小さな工場では、繁忙期には1人欠けても困りますので、これはありがたい点です。

技能実習生の仕事内容と給料

当社の勤務時間は朝8時20分から夕方5時まで(途中、休憩55分)で、ひたすらミシンで婦人服を縫う仕事です。

実習生は、給与総額から税金や社会保険料、寮費などを差し引いて銀行口座に振り込まれる額を「手取り給料」とみなし、他社の実習生と比較しています。

当社の実習生の手取り給料は、残業がなければ11万円ぐらいで、残業が多い月は15万円ぐらいになります。残業が少ない月もありますので、手取りが少しでも増えるよう、寮費は毎月8,000円、水道・電気・ガス・Wi-Fiは固定で月1万円(共同生活)に抑えています。

それでも、うちの手取り給料は決して高い方ではありませんので、せめて実習生たちが気持ちよく働き、気分良く生活できるように、配慮しています。

人と人とのふれ合い(コミュニケーション)

職場の日本人が実習生たちに親切

うちの会社では日本人従業員たちが技能実習生たちにやさしくしてくれています。日本人は年配の女性が多く、年の離れた実習生たちに子や孫のように接しています。家で採れた野菜やお菓子を持ってきて実習生にあげたり、遠方からのお客さんが当社に持ってきたお土産も実習生に優先的に分けたりしています。このため、実習生たちは居心地の良さを感じています。

他社で3年間の技能実習(技能実習1・2号)を終え、3号になるときにうちに転籍してきたフィリピン人が4人いますが、彼女たちは「前の会社では、頭ごなしに厳しくしかられたけど、ここの人たちは皆やさしい」と言っています。

社長・専務もコミュニケーション重視

私と専務(弟)も実習生たちとのコミュニケーションを大事にしています。まず、採用面接はオンラインに頼らず、できるだけ現地に行って候補者たちと直接会うようにしています。ミシンの技術を確認するためというのもありますが、当社の雰囲気や地域に合うかどうか、お互い一緒に働けそうかどうかなどは、直接会った方が判断しやすいと感じています。

普段の仕事でも、私自身も工場で裁断を担当することがあります。現場で一緒に働く時間を作ることで、実習生のみならず日本人スタッフとの距離も少し縮まるかも知れません。

また、私も専務も実習生たちをいろんな場所に車で連れて行き、そのときに彼女たちとよく話をします。そして、仕事のときでもそういうときでも、上からものを言わないように気をつけています。

こうした努力が通じるのか、実習生たちからは「社長も専務もやさしい」と言われています。また、私や専務の誕生日には、彼女たちがケーキやクラッカー、ハッピーバースデーの歌で祝ってくれます。そうなると、私たちも実習生たちのことが一層かわいくて仕方がないということになります。

技能実習生たちの生活サポート

コミュニケーション以外の気遣いとしては、技能実習生たちの生活のプラスになるように次のようなサポートをしています。

畑で野菜作り実習生たちに会社の敷地を畑として使うことを許可しているので、彼女たちはそこで野菜を育てています。自分たちも食べるほか、職場の日本人たちにお世話になっているお礼に自分たちの野菜をあげることもあります。

衣類の提供材料が余ったときは、製品(婦人服)を少し多めに作って実習生たちに無料で分けています。

モールで買い物徒歩15分のところにイオンがあるのですが、毎月1回、私と専務が車1台ずつを運転して全員を大きなショッピングモールに連れて行きます。彼女たちはすごい量のまとめ買いをします。

桜の花見毎年、実習生たちを地元の桜の名所、北上展勝地に車で連れて行って花見をします。私が出店で食べ物を買ってみんなで食べながら日本の春を一緒に楽しみます。彼女たちは写真の撮影会をしてSNSにアップしているようです。

浴衣姿で夏祭り8月には地元で夏祭りがあります。これにうちの実習生たちは浴衣を着て全員で参加しています。浴衣は1枚6,000円ぐらいで、会社から一人ひとりに買い与えています。若い外国人女性は、浴衣を着せてあげるととても喜びます。

行事参加で地域社会から大歓迎

地域の伝統行事に全員で参加

当社の地元、岩手県奥州市では毎年5月のGWに「甚句(じんく)まつり」という祭りがあり、約2,000人の市民が江刺甚句を踊る「江刺甚句大パレード」で町全体が盛り上がります。

私と専務は毎年、技能実習生たちを車で会場に連れて行き、一緒に見物していましたが、3年前からは実習生全員がパレードに参加しています(=上の写真)。

地元で働く若い外国人たちが地域の伝統行事に参加すると、地域の人たちから大歓迎されます。皆さんから喜ばれ、声もたくさんかけてもらえるので、彼女たちは大変楽しそうです。

特にフィリピンの子はお祭りが大好きで、自分から積極的にほかのイベントにも参加しています。キャスター付きの事務いすに座って2時間以内にコースを何周走れるかを競う耐久レース「イスワングランプリ(いす-1GP)」が地元で開催されたときも、うちのフィリピン人実習生6人が参加していました。

このような交流も手伝い、彼女たちが道を歩いていてもスーパーに買い物に行っても、地域の人とあいさつを交わしたり、温かいまなざしで見られたりします。このため、こんな田舎で娯楽施設も少ない町ですが、彼女たちはこの町に居心地のよさ、住みやすさを感じるようです。

ビアパーティーにも参加

このほか、信用金庫主催のビアパーティーに会社が会費を払って実習生全員を連れて行きました。すると、実習生たちは日本人の参加者たちと楽しそうに会話していました。うちの実習生たちは地域から受け入れられていることを実感していると思います。

小川浩平(おがわ・こうへい)

岩手県奥州市の縫製会社「ケーエスファクトリー」社長。有名アパレルのOEM生産を下請け受注し、これまでバーバーリーやブラックレーベル、ユナイテッドアローズ、ビームス、トゥモーローランド、アーバンリサーチなどの製品を扱う。春夏物の婦人服が主力商品。2008年に研修生を受け入れて以降、半年間の中断をのぞき研修生・技能実習生の受け入れを続けている。

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