採用ノウハウ

〈外国人採用の鉄則〉外国人材の求人をめぐる業界の常識とは?:①

外国人材の求人を出す際、その職種・その地域での手取り給与の平均相場を意識して労働条件を設定しましょう。外国人材の海外就労先として日本の人気が急速に低下しており、相場を下回る条件では、人集めが難しくなり、送出機関等の協力を得にくくなります。外国人材の給与相場に関する情報や求人条件に関する注意点、手当・寮費・ボーナスについての考え方などをお伝えします。

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ポイント解説

日本はもはや「夢の国」ではありません:日本の賃金水準が長年横ばいで推移し、人材送出諸国との賃金格差が縮小しました。さらに円安も進行し、外国人材にとって日本の賃金面での魅力は小さくなりました。「日本からの求人であれば、どんな条件でも外国人材は喜んで集まる」という間違った認識をまずは捨てなければなりません。

相場を意識して給与などを設定する:外国人材は職種ごとの給与相場をよく知っています。良い外国人材を十分に集めるには、同じ職種・同じ地域での手取り給与(税金等を差し引いた振込額)の平均相場を意識して労働条件を設定することが大事です。

送出機関等から優先順位を下げられないように:平均を大きく下回る条件で求人を出すと、応募者が十分に集まりませんし、他社の面接に何度も落ちた人ばかり応募するということにもなりかねません。送出機関等も、いつも労働条件が悪い受け入れ事業者には、良い人材を回さなくなります。

求人票に平均的な残業代を記載する:残業代が分からない求人票だと、候補者が応募をためらいます。また、口頭説明にまかせると情報が誤って伝えられ、後に「事前に聞いていた残業代と違う」とトラブルになる場合があります。

外国人材に残業を割り当てる配慮:特定技能外国人や技能実習生には残業代を稼ぎたい人が多いので、なるべく残業を回すように工夫している受け入れ事業者もあります。

外国人材への手当・寮費・ボーナス:基本給と残業代が同地域・同職種の平均より少ない場合、何か手当をつけたり寮費を安くしたりすることでカバーできます。また、特定技能外国人に日本人と同等のボーナスを支給することも大切です。技能実習生にボーナスを支給する例もあります。

「足がかり就職」とは?:外国人材が当面の在留資格や収入が欲しいため、本当は求人条件に納得していないのに、採用確率が高いという理由で不人気な求人に応募する場合があります。その場合、当初から転職を想定しているので、長期定着の可能性は低くなります。

◆このページの内容

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日本はもはや「夢の国」ではありません

外国人が日本で働いておカネを貯めることが「ジャパニーズ・ドリーム」ともてはやされたのは昔のことです。

日本の賃金水準は長年横ばいで推移し、人材送出諸国との賃金格差はどんどん縮小しました。そのうえ円安も進行し、送出諸国の人々の海外就労先として日本の賃金面での魅力は昔と比べてずいぶん小さくなってしまいました。

そのような状況の中、自社の職種や立地で良い外国人材を十分に確保するには、給与や諸条件(寮の費用・内容、生活サポート、キャリプランなど)をどのように設定すればよいのか、各国の人材送出状況を把握したうえで検討しなければなりません。

外国人材の求人条件を設定する際には、まず「日本からの求人であれば、低い給与や悪い条件でも外国人材が喜んで集まる」という間違った認識を捨てなければなりません。その上で、情報通の登録支援機関や監理団体からも情報を得ながら待遇全体を考えることが大事です。

相場を意識して給与などを設定する

同じ職種・同じ地域での給与相場を知る

外国人材はさまざまな情報ネットワークで日本に住む外国人仲間とつながっています。そのネットワークの中で給与についても情報交換をしますので、職種ごとの給与相場もよく知っています。

したがって、良い外国人材を安定的・継続的に雇用するには、同職種・同地域での相場を意識して給与などの求人条件を設定することが大切です。そのためには、情報が豊富で適切なアドバイスをしてくれる監理団体や登録支援機関などと付き合うことが大事です。

もちろん、給与だけが外国人材の職場定着を左右するのではなく、仕事内容やさまざまな待遇・条件による総合的な「納得感」や「満足感」が大事です。しかし、給与がその職種・地域での相場を大きく下回っていると、十分な納得や満足を得るためのスタートラインに立てません。

残業代も含めた給与が重要

特定技能外国人や技能実習生の多くが、残業代や諸手当も含めた総支給額から税金や社会保険料、寮費などを差し引いた口座振込額を「手取り給料」と受け止め、その「手取り給料」の相場をよく知っています。

基本給が平均相場に達しているだけでは不十分で、残業代や諸手当も含めた給与水準が同じ職種・同じ地域での平均以上でないと、良い人材が十分に集まる可能性は低いですし、採用後も高い定着率は望みにくいと言えます。

送出機関等から優先順位を下げられないように

給与相場を知るには登録支援機関や監理団体などに相談する方法があります。その職種ではどのぐらいの給与なら応募者を集めやすいか豊富な情報を持っている機関・団体に相談したり、求人設定を一緒に考えてもらったりすると、効果的です。

登録支援機関や監理団体にとって受け入れ事業者は顧客なので、取り引きを絶たれることを恐れて求人条件について意見をあまり言わない機関・団体も多いです。

しかし、給与条件が明らかに平均を大きく下回っているのに、そのまま海外の人材会社(送出機関等)に依頼すると、応募者が十分に集まりませんし、他社の面接に何度も落ちた人しか応募しないということにもなりかねません。

また、送出機関等も、いつも求人条件が悪い受け入れ事業者には、良い人材を回さなくなります。そして、求人に対して応募者が十分に集まらなくてもあまり無理をせず、結果だけを伝えてくるという状況になっていきます。

日本の人材不足が深刻化するのはこれからが本番で、近い将来、外国人材の売り手市場になります。このため、送出機関等から優先順位を下位に置かれることは避けたいものです。

給与相場に関する業界情報の例

給与条件は良い外国人材を集めるためにも職場定着にとっても重要です。ここでは、外国人材業界でヒアリングした給与相場に関する情報をいくつか紹介します。

このような情報は常にアップデートされますので、情報通で適切なアドバイスをくれる登録支援機関や監理団体などを選んで付き合うといった対策が必要です。

◆給与相場等に関する情報の例(実際の情報)

ベトナムの送出機関役員(2024年)

【国ごとの賃金相場など】

・ベトナムよりインドネシアやミャンマーの人材の方が、賃金相場が安い。ただし、ベトナム人材はまじめに働く人が多く、人材の質に対する評価が高い。

【ベトナムへの農業求人】

・農業の求人に若いベトナム人を集めるのは難しい。30代でもよければ、集められるが、手取り給料(税金や社会保険料、寮費等を差し引いた口座振込額)15万円以上が必要。手取り18万円なら、求人数の2倍の候補者を集めることができる。

【ベトナムへの建設求人】

・建設の技能実習も、30代後半や40代でもOK、タトゥーも小さければOKなど、求人条件を緩和すれば、応募者を集められる。その場合、手取りは15万円以上。若い人材がほしいなら、手取り18万円以上。

・建設には、日本人は応募しないし、就職してもすぐに辞める。外国人も最低賃金では集まらない。それを踏まえて求人条件を引き上げる監理団体や企業も増えた。

・大阪のある監理団体を通じて建設の実習生を毎年約30人送り出しているが、失踪者が非常に少ない。基本給が平均22万円(配管なら23万円)と条件が良いから。

【不人気業種】

・建設の中でも特に不人気なのはとび、型枠、鉄筋。建設以外に不人気なのは農業と縫製。こうした職種に人を集めるには、年齢等の条件を緩和するしかない。

【ベトナムへのその他の求人】

・それ以外の職種では年齢等の条件を緩和すれば、手取り13~14万円でも応募者を集められる。しかし、若い人を集めたいのであれば、最低15~16万円は必要。手取り17万円以上なら、若くて優秀な人材を十分に集めることができる。

北陸の監理団体幹部(2024年)

【特定技能や技能実習でのボーナス】

・北陸では最低賃金が安いが、定着率の高い会社では、外国人材にもボーナスを支給しているメースが多い。

〈例〉建築A社(とび):技能実習生にボーナス年30万円

〈例〉自動車整備B社:特定技能外国人に夏のボーナス30万円、技能実習生に10万円。冬は別途。

東京の人材会社社長のベトナム人(2024年)

【特定技能の首都圏での給与相場】

・当社が仲介する外国人材(国籍さまざま)の額面給料は特定技能で22~29万(残業代別)。建築は基本給27万円で残業なし。当社がメンターとしてフォローすることもあり、全体に早期退職者は少ない。

北関東の監理団体理事長(2023年)

【残業不可なら手当で補充】

・大手企業ほど残業は少ない。しかし、外国人材の手取り給料の平均相場を意識しているので、何らかの手当を付けて総額を水準以上に保つ例が多い。

首都圏の監理団体顧問(2024~25年)

【20時間以上の残業かほかの工夫】

・特定技能や技能実習の応募者を十分に集めたいなら残業20時間以上が必要。それができない場合は、寮費を安くするなど、手取りを増やす工夫を。

【ベトナムへの求人】

・ベトナムの建設人材(技能実習生)を集めるには手取り18~19万円が適正。

・食品加工なら手取り13~14万円でも集められる。

【インドネシアへの建設求人】

・インドネシアでも地方によっては建設の求人への応募者が激減している。

求人票に平均的な残業代を記載する

特定技能外国人や技能実習生を募集する際、求人票に残業代を記載しないと、海外の人材会社(送出機関等)が監理団体から残業代に関する情報を聞いて、候補者たちに口頭だけで説明したり、残業の多い月の残業代だけを伝えたりするケースがあります。

残業代が分からない求人票だと、手取り給料が不確かなので応募者が集まりにくくなります。また、口頭での説明にまかせると、情報が誤って伝えられ、就労後に「事前に聞いていた残業代と違う」とトラブルになる場合があります。

そこで、例えば過去1年間の残業代の平均額などを記入すると、外国人材は給与条件を正しく判断して応募することができます。

中には、監理団体等を通して過去1、2年間の外国人材の賃金台帳を送出機関等に送る受け入れ事業者もあります。

外国人材に残業を割り当てる配慮

働き方改革の影響もあり、大手企業を中心にどの現場でも以前と比べて残業が少なくなりました。

しかし、特定技能外国人や技能実習生には残業代をなるべくたくさん稼ぎたいという人が多いので、外国人材になるべく残業を多く回すように工夫している受け入れ事業者もあります。

配慮事例1

関西のある加工食品製造工場では、日本人の残業はかなり減ったのですが、特定技能外国人が残業代をほしがるので、彼らには残業を多めに回すように配慮しています。

配慮事例2

複数の工場を持つ九州の農産品加工会社は技能実習生たちに安定的に残業代を支給するために、所定労働時間終了後に、その日に残業がある工場に実習生を集め、残業をなるべく多く割り当てるようにしています。

外国人材への手当・寮費・ボーナス

特定技能外国人や技能実習生の大半が残業代も含めた手取り給料の額を意識して求人を選びます。

そこで、さまざまな工夫で手取り給与を引き上げ、それを求人票にも分かりやすく記載することで、良い人材を十分に集めることができます

残業代不足を補う何らかの手当

大手企業の場合は、残業を増やさない代わりに何らかの手当をつけて手取り給料が同職種・同地域の外国人材の平均相場を下回らないように工夫しているケースもあります。

中小企業でも、外国人材が日本語試験に合格すると、試験の等級に応じて一時金の支給や基本給(時給)の引き上げ、あるいは資格手当の支給をしている例はたくさんあります。手取り給料の低さを補うと同時に、外国人材の日本語学習意欲を高め、人材育成にもなります。

寮費を安くすることは手当と同等の効果

手取り給料や残業代が低く、諸手当もあまり付けられない場合、寮費を安く設定することで埋め合わせになる場合があります。

関西のある技能実習実施事業者は従来2万円だった実習生の寮費負担を5,000円に引き下げ、求人への応募者を増やすことに成功しました。清潔な寮を少ない自己負担で提供すると、外国人材の手もとに残るおカネが増えるので、実質的に手当と同じ効果があります。

中には、寮費を安く提供することに加えて寮の水道・光熱費の自己負担額を定額にし、会社が不足分を負担しているケースもあります。

特定技能外国人のボーナス

日本人従業員へのボーナスの制度がある場合は、技人国(技術・人文知識・国際業務)の外国人材はもちろん、特定技能外国人にも日本人と同等のボーナスを支給しなければなりません

しかし、これまで取材した受け入れ事業者の中には、特定技能外国人に日本人より低いボーナスしか支給していない事例もありました。

今後、特定技能外国人の間でボーナスについても情報交換が進むと予想されます。特定技能外国人を安定的・継続的に確保していくためには、適正なボーナス支給も不可欠です。

技能実習生へのボーナス

技能実習生にはボーナスを支給する義務はありません。しかし、最低賃金額が低く手取り給料が都会に比べて見劣りする地方の受け入れ事業者の中には、技能実習生にもボーナスを支給している例がたくさんあります。

そのような受け入れ事業者はボーナスや生活サポートなどさまざまな工夫で外国人材の定着に努めており、外国人材も企業に愛着を感じて長期定着する傾向が大きいです。

移動時間が長い場合の措置

建設やビルクリーニングの特定技能や技能実習で、始業前と終業後の移動があまりに長い場合は、「出張手当」を付けるとか、会社や寮に戻る時間が一定時刻を超えたら残業代を計上するなど、長時間拘束の一部に対して何らかの対価を検討する余地もあります。

神奈川県の建設会社で働いていた技能実習生は、寮から新宿の建設現場まで長期間にわたって毎日往復約4時間の移動(会社が車で送迎)が続いたのに、手当が一切なく、仕事内容や残業代への不満と合わさって同僚と一緒に失踪しました。

移動に手当を支払わなくても違法ではないものの、外国人材は日本人以上にワークライフバランスを重視することや、移動に伴う疲労を勘案すると、これほど長い移動時間に対して「手当は一切なし」では、少なくとも長期定着は期待できません。

「足がかり就職」とは?

特定技能や技人国(技術・知識・国際業務)の外国人材が日本で就職する場合、とりあえず当面の在留資格が欲しいため、本当は求人条件に納得していないのに、採用確率が高いからという理由で不人気な求人に応募する場合があります。

パターン1

外国から特定技能外国人として日本に行くにあたり、本命企業の面接に落ちたものの、早く収入を得たい(=早く訪日したい)ので、採用してもらえる確率の高い不人気な求人に応募する場合があります。

その場合、日本に慣れたらなるべく早く条件の良い別の職場に転職したいと考えながら、当面の在留資格や収入のためにその職場で働くことも多く、長期定着の可能性は高くありません。

パターン2

日本で留学していた外国人が本当は技人国の仕事に就きたかったのに内定を取れず、仕方なく特定技能で就職して将来の再挑戦を期すというケースもあります。

学校・大学を卒業したら「留学」の在留資格はなくなるため、何らかの新しい在留資格を取得しなければ、日本滞在を続けられません。

そこで、技人国での就職がかなわなかった留学生が取りあえず特定技能で就職する場合もあります。その場合、機会があればいつか技人国に移行したいと考えていることが多いと考えてください。

「足がかり就職」

このような就職は当初から次の職場を強く意識している、いわば腰掛け的な就職です。日本での当面の在留資格や生活費を得るための「足がかり就職」とも言えます。

それでも、働き始めてみると、その職場が気に入って長期定着してくれることもありますが、基本的には早期離職リスクが高い人材です。

給与などの求人条件をより適切に設定し、本命の応募者を十分に集めることができれば、このような人材を選んでしまうリスクも減らすことができます。

まとめ

このページのまとめ

◎日本と人材送出諸国との賃金格差が縮小したうえ、円安も進み、外国人材にとって日本の賃金面での魅力は小さくなりました。日本は今や外国人にとってあこがれの国ではありません。

◎外国人材は職種ごとの給与相場をよく知っています。良い外国人材を十分に集めるには、同じ職種・同じ地域での手取り給与の相場を意識して労働条件を設定することが大事です。

◎海外の人材会社(送出機関等)は、いつも労働条件が悪い受け入れ事業者には、良い人材を回さなくなる傾向があります。

◎求人票に平均的な残業代を記載しましょう。

◎特定技能外国人や技能実習生の希望に応えるため、彼らになるべく多く残業を回すように工夫している受け入れ事業者もあります。

◎基本給と残業代が同地域・同職種の平均より少ない場合、何か手当をつけたり寮費を安くしたりすることでカバーできます。

◎外国人材が当面の在留資格や収入が欲しいため、本当は求人条件に納得していないのに不人気な求人に応募する場合がありますが、早期離職リスクが高いです。

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