採用ノウハウ

〈外国人採用の鉄則〉送出機関から監理団体等へのキックバックに注意

技能実習や特定技能の外国人を雇う場合、日本の監理団体(組合)や登録支援機関が送出機関からキックバックを受け取っているケースがあります。それは一体どのようなケースでいくらぐらいの額が支払われるのでしょうか?そして、キックバックの原資はだれが負担するのでしょうか?また、キックバックが存在することで、受け入れ事業者はどのような不利益を受けるのでしょうか?

1分で読める記事の要点〈時間のない方はこちらだけ!〉

ポイント解説

・送出機関から監理団体等にキックバック: 送出機関が技能実習や特定技能の求人をもらうために、監理団体や登録支援機関に対し求人数に応じてキックバックを支払う場合があります。その額は1人あたり十数万円に上ることもあります。

・キックバックの受け取り方:キックバックは非公式なおカネなので、現金での受け渡しが多く、監理団体トップが送出国に出向いて受け取る場合などがあります。

・過剰な接待も:キックバック以外に、監理団体幹部のホテル代や飲食費、女性を伴う遊興費などを送出機関が負担する場合もあります。

・負担するのは外国人労働者:キックバックや過剰接待の原資は、送出機関が技能実習や特定技能の候補者から徴収する費用に上乗せされます。

・二次的な「被害者」は受け入れ事業者:送出機関によるキックバックや過剰接待がもとで過度の借金をして来日する外国人労働者を雇用すると、彼らは給料の額だけに関心が過度に集中し、職場定着が困難になりがちです。

・キックバックの可能性を見抜く簡単な手法:自社で働き始めた外国人から送出機関に支払った額をヒアリングしましょう。

・外国人が過度の費用負担をしていた場合の対応:良い監理団体は実習生の費用負担についても自分でリサーチしています。そのような監理団体に切り替えると、監理の質も良いですし、送出機関も自動的に変えることができます。

◆このページの内容

送出機関から監理団体等にキックバック

外国人を受け入れる会社や団体には、さまざまな関係者から「外国人を雇いませんか?」とか「外国人の採用ルートをうちに切り替えませんか?」といった売り込みの電話が頻繁にかかってくる場合があります。同時に、日本の監理団体や支援機関に対しても、外国の送出機関から同じように営業アプローチの電話がよくかかってきます。

監理団体や支援機関との結びつきを、紹介を広げて地道に増やす送出機関もありますが、無数の電話営業を重ねるなどして取引先を開拓する送出機関もあります。しかし、送出機関にとって監理団体や支援機関から選んでもらい実際に求人を発注してもらうことは至難の業。そこで、送出機関が監理団体等にキックバックを支払うことで求人をもらうという取り引きが発生します。

それは「うちの送出機関に求人を出していただいたら、1人あたり〇万円をキックバックします」とか「キックバックは1人あたりいくらお支払いしましょうか?」といったやり取りです。キックバックの額はさまざまで、求人1人あたり十数万円に及ぶこともあります。

つまり、監理団体等が外国人材の受け入れ事業者から求人をもらい、それを送出機関に発注すれば、送出機関から求人数に応じて非公式のキックバックが監理団体側に支払われるという仕組みです。

複数の監理団体関係者によると、キックバックのやり取りは古くから行われており、質の悪い監理団体や登録支援機関がキックバックを受け取っています。キックバックの慣行は、新型コロナの感染拡大で外国からの人材受け入れが難しくなっていた時期には一時なりをひそめましたが、その後しだいに復活したとのことです。

キックバックの受け取り方

外国人技能実習機構はもちろんキックバックを認めていませんので、このおカネは公式には受け取れません。監理団体内部でそのやり取りを見てきた複数の関係者によると、キックバックの受け取りは主に現金(主に米ドルか円)で行なわれ、「監理団体のトップが現地に赴いて現金で受け取る」「技能実習生が訪日する際に1人10万円ずつ持たせ、入国後に監理団体が回収する」といった方法がとられているそうです。キックバックについて所得税の申告をしているかどうかは定かではありません。また、ある送出機関によると、監理団体側が指定した現地の女性の口座にキックバックを振り込むこともあるとのことです。

過剰な接待も

監理団体や登録支援機関と送出機関との間の支配従属関係によるこのような不当な見返りはキックバックだけにとどまりません。監理団体等によっては、現地で候補者を面接する受け入れ事業者に付き添ってその国に渡航したときに、送出機関に過剰な接待を求める場合もあります。

ベトナムのある大きな送出機関で営業担当として働いていたベトナム人男性によると、監理団体幹部が日本からベトナムにやってきたときに、幹部らの滞在中の毎晩の食費や女性による接待を伴う店の費用も送出機関が負担するケースがたくさんあったそうです。また、インドネシアの送出機関関係者によると、受け入れ会社と監理団体の計3名が候補者面接を終えた後、バリ島の高級ホテルに数日間滞在し、その滞在費を全額負担するよう送出機関に求めたケースもあります。

負担するのは外国人労働者

問題はこうした費用を技能実習生や特定技能外国人が負担することです。

法務省が2021~22年に行なった調査によると、技能実習生が送出機関に支払った費用の総額(平均値)は52万1065円で、国籍別では、ベトナム65万6014円、中国57万8326円、カンボジア57万1560円、ミャンマー28万7405円、インドネシア23万1412円、フィリピン9万4191円となっています。

これらはあくまでも平均であって、送出機関によってはもっと高い金額をとっている会社もたくさんあります。特に、監理団体等へのキックバックや過剰接待を行なっている送出機関はキックバックや接待にかかった費用を技能実習や特定技能の候補者から徴収する費用に必ず上乗せするので、平均より高額になることが大半です。これによって外国人労働者の負担額が増え、それを支払うための借金も増えます。

二次的な被害者は受け入れ事業者

訪日のために抱えた借金が高額になると、外国人労働者は日本に来てからおカネのことばかりが気になります。すると、受け入れ会社が平均的な給料を支払ったうえで、職場環境や生活サポートなどについてさまざまな工夫や気配りをしても、外国人はその待遇になかなか満足しません。受け取るおカネの額だけに関心が集中するからです。

こうなると、職場への長期定着は難しく、技能実習の3年間が終わったら、他社に移って特定技能に進むことも多くなります。最初から特定技能で採用している場合は転職が自由なので、入国して落ち着いたら早期に他社に転職してしまうケースもあります。

キックバックを負担させられた外国人労働者を採用した場合、その受け入れ事業者が二次的な「被害者」ということになります。

キックバックの可能性を見抜く簡単な方法

それでは、外国人受け入れ事業者はこのような送出機関をどうやって見分ければよいのでしょうか? それには、日本に来るために送出機関にいくらお金を支払ったのか、自社の外国人労働者たちに直接リサーチすることが有効です。

その際、外国人によっては、そのような質問を受けた場合に答える金額を送出機関から指示されている場合もあります。しかし、外国人労働者たちと信頼関係を築けば、本音を引き出すことができます。

その際、銀行からいくら借りたのかだけを聞くと、その借金には実家のための別目的の借金も含まれている場合がありますので、それとは区別して聞いてください。

外国人が過度の費用負担をしていた場合の対応

外国人労働者に送出機関に支払った金額を聞いた結果、その費用が平均より著しく多かった場合、まず監理団体等に是正を求めてください。

監理団体等が受け取るキックバックや過剰接待が原因で外国人の費用負担がふくらんでいる場合は、それをやめれば、問題は解消します。その場合、監理団体は「キックバックを受け取ることをやめます」とは言いませんが、実際にはそれをやめることによって受け入れ事業者のリクエストに対応する場合があります。

あるいは、監理団体等が送出機関を変えることを提案してくる場合もあります。これは、監理団体がキックバックを受け取っていない場合に考えられる対応なので、こちらの方が好ましい対応と言えるでしょう。

しかし、最も効率的な対応はまず監理団体等を変えることです。

良質な監理団体等はキックバックも過剰接待も求めないことはもちろん、送出機関の選び方も慎重で、実習生の費用負担についても自分たちでリサーチしています。知人に紹介してもらうか外国人雇用に関するセミナーに参加するなどして良い監理団体等を探すことが最善です。監理団体等を変えることによって自動的に送出機関も変えることができます。

まとめ

このページのまとめ

  • 送出機関が監理団体等に対し実際の求人数に応じてキックバックを支払う場合があり、その額は1人あたり十数万円に上ることもあります。
  • キックバックは、現金での受け渡しが多く、監理団体トップが送出国で受け取る場合などがあります。
  • キックバック以外に、監理団体幹部のホテル代や飲食費、遊興費を送出機関が負担する場合もあります。
  • キックバックや過剰接待の原資は、送出機関が技能実習や特定技能の候補者から徴収する費用に上乗せされます。これは、外国人労働者が訪日する際の過剰な借金につながります。
  • 過度の借金をして来日した外国人労働者は給料の額だけに関心が集中し、職場定着が困難になりがちです。
  • 自社で働き始めた外国人に送出機関に支払った額を逐一ヒアリングしてください。その結果、外国人労働者が過度の費用負担をしていた場合、監理団体等を変えるなどの対処法があります。

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