採用ノウハウ

〈外国人採用の裏側〉海外の人材募集現場で起きていること

日本で2025年6月の在留外国人数が約396万人を記録して過去最多を更新する一方、外国人を排斥する論調が広まっています。「外国人増加が原因で日本人の賃金が上がらない」「外国人増加で治安が悪化」といった根拠の不明確な言説もあり、政府は外国人受け入れ数に上限を設けることも検討しています。しかし、海外の人材募集現場で起きている状況を考察すると、外国人が日本に際限なく入ってくるという未来図よりも、むしろ必要な人材確保が難しくなる懸念の方が強いようです。

◆このページの内容

外国人が増えすぎることへの心配と現場の感覚

SNSなどで「外国人の増加で治安が悪化した」「多数の外国人が不当に生活保護を受けている」「外国人が優遇されている」といった投稿が目立ちます。

いずれも明確な根拠があるわけではありませんが、こうした言説に応じるかのように「外国人受け入れ人数に上限を設けるべき」との議論もあります。

しかし、外国人材受け入れ上限論に対し、海外で人材募集に携わる人たちは首をかしげています。出稼ぎ先としての日本の不人気が進み、外国人が際限なく日本に押し寄せるというよりは、「人材募集が今後どんどん難しくなっていく」という予測が海外の人材募集現場で広がっているからです

海外の募集現場で広がる日本の不人気

日本で働く外国人労働者を海外で募集する立場の人たちに聞くと、「日本が外国人受け入れへの上限設定を議論することは見当違い」と言います。

ベトナムから日本に長く人材を送り出してきた送出機関を経営する日本人男性は「諸外国の賃金が上昇したのに日本の賃金だけがすえ置かれ、さらに円安も加わって、『日本に行ってもあまり稼げない』という認識が広がりました。海外の出稼ぎ先として日本の不人気が深刻化し、今後も大きな改善は期待できないでしょう」と話しています。

ベトナムで起きていること

日本の求人の不人気が深刻化

ベトナムは日本への最大の人材輩出国です。しかし、複数のベトナムの送出機関経営者によると、日本の求人に応募するベトナム人は昨今、急速に減っています。

出入国管理統計によると、日本に新規で入国したベトナム人技能実習生は2019年には91,170人いましたが、2022年度は83,403人、23年度77,634人、24年度は57,956人と減少を続けています。

これは、求人に対して応募者が十分に集まらない状況に直面して、受け入れ企業がベトナム人による新たな技能実習をあきらめるか募集人数を減らしたためです。応募者不足によってベトナム人材の質が低下したため、受け入れ企業が求人先を他国にシフトするケースもあります。

ベトナムでの日本不人気の背景

ベトナムでの日本の求人の不人気の背景には、下記のような要因があります。

  • ベトナムでは賃金が毎年5~7%上昇を続ける一方、日本の賃金はあまり上がらず、両国間の賃金格差が縮小した
  • 歴史的な円安によって日本で受け取る賃金の実質価値がさらに大きく下がった。

日本で働く経済的メリットが薄れたため、日本からの求人に対するベトナムでの人気が急激に下がり、求人への応募者を集めることがどんどん難しくなりました。

他国の人気が上昇

一方、少子高齢化に伴う外国人材への需要は日本に限ったことではありません。欧州諸国やアジア諸国でも外国人材への需要は増大しています。

そのような中、東アジアでは、日本より賃金が高い韓国や採用面接から入国までの期間が短く残業も多い台湾の人気が高まり、ベトナムでは日本の求人より韓国・台湾の求人の方が、人気が高くなっています

送出機関経営者によると、「2024年ごろから、欧州、韓国、台湾からの求人には応募者が順調に集まるのに、日本からの求人にだけなかなか集まらず、日本の一人負けの状況になっている」とのことです。このため、韓国・台湾の会社の採用面接に落ちた人材が日本の求人に応募するというような流れが広がっているそうです。

国を変えれば解決する?

インドネシアの首都ジャカルタ

「ベトナムがだめなら、他国からの受け入れを増やせばよい」という意見もあります。実際、2020年代に入ってから、ベトナムに代わってインドネシアやミャンマーなどからの人材受け入れが増えました。

中でも日本への人材輩出が急増しているのがインドネシアで、日本からの求人増に伴ってインドネシア国内にも日本向けの送出機関が急増しました。

しかし、送出機関が増えすぎた結果、機関ごとに人材募集力や日本語教育力に大きな格差が生まれました。

日本からの求人が急に増えたからといって、良い日本語教師が急に増えるわけではありませんし、応募者も求人と同じペースで増えるとは限りません。日本の給料がそれほど高いわけではないからです。

このため、以前はインドネシアからまじめで意欲的で日本語力も高い人材が高い確率で日本に入ってきていましたが、今はそうではありません。送出機関の質や、送出機関から見た受け入れ事業者の位置付け、求人の内容やタイミングによって、送り出される人材の質に大きな違いがあります。

一方、やはり日本語力が高い人材を多数送り込んできたミャンマーについては、2025年に入って軍事政権が日本への人材輩出に制限を設け、安定的・計画的な人材受け入れが困難になっています。

このように、どこの国に依頼しても、求人と応募者の需給バランスは時代とともに変わりますし、他の先進諸国との獲得競争もあります。そこで、良い外国人材を長期に渡って安定的に受け入れていくには、そのときどきの状況に応じて受け入れ条件や環境を整えていく必要があります。

安定的な人材受け入れのために

ここまで見てきたように、ベトナム人の海外出稼ぎ先としての日本の人気が急激に下がったほか、他の人材輩出諸国についても将来にわたって必要な人材を安定的に確保できるとは限りません。

ベトナムでの日本の求人の不人気の主な原因は日本の賃金安と円安、他の人材受け入れ諸国との競合などで、同じ要因で近い将来、ベトナム以外にも不人気が広がる可能性は十分にあります。

このような状況の中で、「日本で外国人の受け入れに上限を設けるべき」という議論や「外国人が増えるから治安が悪化する」といった根拠なき外国人排斥の言説が蔓延してしまうと、外国人から見て日本は働き先としてますます魅力がなくなってしまいます。

日本の人口動態から考えて、経済活動や地域社会の担い手を補うために外国人労働者の存在は今後も欠かせません。それを適正に確保していくためには、外国人も差別なく等しく尊重し、多文化共生をさらに推進することや職場で適正に処遇することなど、「不人気」をばん回するための対応が望まれます。

まとめ

このページのまとめ

◎「外国人増加で治安が悪化」「外国人が不当に生活保護を受けている」といった外国人排斥の言説に呼応するかのように「外国人受け入れ数の上限設定」が検討されています。しかし、海外で出稼ぎ先としての日本の不人気が進み、人材募集現場では「外国人材の募集は今後ますます困難になる」という予測が広がっています。

◎ベトナムでは日本の求人への応募者が激減しています。欧州、韓国、台湾などへの送り出しは順調で、日本の求人だけが一人負けの状況です。諸外国の賃金が上昇したのに日本の賃金だけがすえ置かれ、さらに円安も加わって、日本で働く経済メリットが大きく低下したからです。

◎どこの国から人材を受け入れても、求人と応募者の需給バランスは年々変わりますし、他の受け入れ諸国との競争もあります。日本が状況に応じて受け入れ条件や環境を整えていかないと、良い外国人材を長期的・安定的に確保するのは難しいと言えます。

◎外国人排斥の言説が蔓延すると、外国人にとって日本は働き先としてますます魅力がなくなってしまいます。経済活動や地域社会の担い手を外国からも適正に確保していくためには、外国人も差別なく等しく尊重し、共生社会をさらに推進することが大切です。

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