
自社で雇用する特定技能外国人や技能実習生などの人数がある程度増えてくるとと、人材の国籍を分散させることも検討しましょう。外国人材の分散には、▽日本語が共通言語となり、外国人材の日本語レベルを保てる▽外国人コミュニティが分散している方が運営しやすい▽国別の人材輩出事情の変化にも対応できる――といったメリットがあります。この記事では外国人材の国籍分散のメリットについて説明します。
◆このページの内容
国籍分散で外国人材の日本語レベルを保つ

先輩に頼り切って日本語を使わない後輩たち
特定技能や技能実習の外国人材を増やしていく場合、先輩たちが後輩たちに仕事を教え、生活の世話もし、全体がうまく回っていくケースがよくあります。
ただし、一つの国籍だけで増やしていくと、先輩と後輩との間のコミュニケーションはもっぱら母国語で行なわれ、先輩たちが当初来日したときに懸命に日本語を使ったような環境は生まれません。その場合、後輩たちは母国語で先輩たちに何でも聞け、母国語だけで仕事も生活も回っていきますので、後輩たちの日本語力はあまり上達しません。
また、監理団体に勤務し、通訳と一緒に現場の実習生のサポートを続けてきた幹部によると、「日本語を覚える努力をせず、日本人とのコミュニケーションを先輩実習生に頼る後輩たちは、不思議なことに、仕事面でもなかなか自立できないのです」と話しています。
そのような職場では、中心的な先輩たちが他社に転職してしまった場合や母国に帰った場合、外国人材の運営に大きな支障が出るケースもあります。
日本語が上達せず、将来の可能性も狭まる
せっかく日本で働くのに日本語を使う機会を失うのは外国人材にとっても不利益です。
先輩も後輩も一人ひとりの外国人材が日本で自立的に働き生活することができる能力を身に付け、将来の可能性を広げていってほしいものですが、そのためには日本語学習や仕事・生活を通じた日本語力向上が欠かせません。
外国人材それぞれに人生計画があり、日本に在留する年数も一つの職場で働く年数も違います。しかし、日本語力を高めることができた人材は日本での暮らしが楽しくなり、言葉が理解できるため日本への愛着も増し、日本に長くとどまったり帰国しても日本と関わる仕事を志したりする傾向が強くなります。
受け入れ企業にとっては、こうした人材の中から社内の管理職候補を見つけることもできますし、外国人材の取りまとめも期待できます。さらには、海外で事業を展開する場合の協力者になってもらうことも可能です。
国籍分散で日本語を共通言語に
職場の外国人材の国籍を複数に分散させると、外国人材にとって職場の共通言語が日本語となり、何でも母国語で先輩に聞くだけでなく、職場でのコミュニケーションのために必要に迫られて日本語を使う努力をします。
これによって日本語力が上がりますし、よりよい意思疎通を目指して夜や休日に日本語学習に励む人材も多くいます。
外国人材を一つの国から採用し続けるより、こうして国籍を分散させた方が、外国人材の日本語力の向上という面でメリットがあるのです。
一度の採用で数人規模という中小の事業所も多いと思いますが、例えば、今年はベトナム人を新規で3人採用したら、来年はインドネシア人を3人採用するというように、新規採用する人材の国籍を交互に入れ替えていくと、直近の先輩・後輩の間の共通言語が日本語になる確率が高くなります。
職場での外国人コミュニティの分散
職場の外国人コミュニティ

外国人材は職場で自分たちのコミュニティを形成し、職場や寮で顔を合わせるとき以外にもSNSグループなどでつながって意見や情報を交換し合います。
その中のコミュニティの仲のリーダー格の外国人材が会社になじみ、良い意味で他の外国人材をリードしてくれると、会社としては助かります。しかし、中には会社の方針や上司と合わず、会社に不満を持つリーダーが出る場合もあります。
会社としては、採用段階で会社と相性の合う人材を選ぶことが大切ですが、面接に応募する人材の数も限られるので、採用してみたら、会社の方針や職場の雰囲気と合わないといったケースも出てきます。
その結果、もし職場の外国人コミュニティのリーダーが会社と反目すると、会社としては外国人材全体の運営が難しくなってしまいます。ひどいケースでは、リーダーの離職に伴って仲間たちも何人か一緒に辞めてしまうこともあります。
職場の外国人コミュニティ分散でリスク分散

そのような場合、その国籍の外国人たちを統制するのにまずひと苦労することはもちろんですし、複数の外国人材が一度にやめると、職場の運営が大変になる場合もあります。
しかし、もし別の国籍の外国人材もいれば、そちらは引き続き安定的に運用できるので、職場運営へのダメージを減らせることになります。
このように、外国人材の国籍を分散させることで、外国人コミュニティ(グループ)を分散させ、外国人材全体のマネジメントをより安定的に行うことができます。
人材の長期・安定確保のために国籍分散

ベトナムでの日本の人気低下
2025年現在、日本で働く外国人で1番多いのはベトナム人です。特に技能実習生ではベトナム人が断トツのシェアですが、新型コロナの感染収束以降の趨勢としては、日本行きを希望するベトナム人は急減し、韓国や台湾の人気の方が高くなっています。
出入国管理統計によると、日本に新規で入国したベトナム人技能実習生は2019年には91,170人いましたが、その後減少傾向で、2024年度には57,956人にまで減りました。
背景としては、日本の賃金が長年ほとんど据え置かれた一方で、ベトナムの賃金も日本以外の人材受け入れ諸国の賃金も大きく上昇したことがあります。さらに、歴史的な円安も加わって、外国人材が日本で受け取る賃金の実質価値が昔に比べて大きく下がり、海外就労先として日本を選んだ場合の経済的メリット(どれだけ稼げるか)が大きく減少してしまったのです。
日本への特定技能外国人や技能実習生の送り出しを中心に事業を展開してきたベトナムのある送出機関の経営者によると、日本に行きたい人材を募集することが年々困難になっており、せっかく求人を受けても対応しきれずキャンセルするケースもあるそうです。
この経営者は「他社が取り扱っている韓国・台湾・欧州からの求人には順調に応募者が集まるので、日本の人気だけがなくなったと言える」と話しています。
一つの国に頼ると安定的な人材確保ができなくなることも
そこで人材供給源をベトナムからインドネシアやミャンマー、ネパールなどにシフトする会社も増えました。
しかし、インドネシアでも日本への人材輩出が急増した結果、かつては同国から日本語力の高い人材を比較的容易に取れたのに、しだいに応募者数が求人数に追いつかなくなり、良い人材の確保が以前と比べて難しくなっています。
これは、インドネシアで日本向けの送出機関は急増したものの、日本に行きたいインドネシア人や日本語をしっかり教えられる教育者も同じペースで増えたわけではなく、送出機関ごとに人材募集力や教育力に大きな差が出ているためです。
また、ミャンマーについては、政府が2025年春から日本への人材輩出を制限し始め、日本としては同国からの安定的・計画的な人材獲得が難しくなりました。
外国人材の受け入れを一つの国に頼ってしまうと、その国から日本への送り出し状況が変化したときに大きな打撃を受けてしまいます。そこで、人材確保の安定性やリスク分散という意味でも、国籍を複数に分けて人材獲得を進めていく方が得策といえます。
まとめ

このページのまとめ
◎ 一つの国籍だけで外国人材を増やすと、先輩と後輩とのコミュニケーションがもっぱら母国語で行なわれ、後輩たちの日本語力があまり上達しません。このような職場では、中心的な先輩たちが他社に転職してしまった場合や母国に帰ってしまった場合、大きな痛手を受けます。
◎ 日本語力の高い外国人材は日本での暮らしが楽しくなり、日本への愛着も増すため、日本に長くとどまるか、帰国しても日本と関わる仕事を希望する傾向が大きくなります。受け入れ企業にとっては、こうした人材の中から社内の管理職候補やリーダーを見つけることもできます。
◎ 職場の外国人コミュニティのリーダーが会社や上司と反目すると、外国人材全体の運営が難しくなります。リーダーの離職に伴って仲間も一緒に辞めるケースもあります。しかし、もし別の国籍の外国人材もいれば、職場運営へのダメージは減ります。
◎ 日本の賃金が長年据え置かれたのに、ベトナムの賃金も他の人材受け入れ諸国の賃金も大きく上がったため、ベトナムにおける海外就労先としての日本人気が急落しました。
◎不人気の原因が日本の賃金安や円安なので、人材募集先の国を変えても、早晩、ベトナムと似たようなことが起こる可能性が十分にあります。人材確保の安定性やリスク分散という意味でも、国籍を分けて人材獲得を進める方が得策といえます。