
「特定技能外国人は必要な日本語試験に合格しているので、最低限の日本語会話ができるはず」――受け入れ企業のそんな期待を裏切って、簡単な会話すらできない新規入国の特定技能外国人が増えています。日本語試験のレベルが低いことや試験対策に偏って会話練習が不足することも背景ですが、会話力を分ける大きな要因は送出機関等の教育力や教育期間、そして本人の努力です。最低限の日本語会話力がある外国人材を雇いたい場合はどうしたらよいのでしょうか?
1分で読める記事の要点〈時間のない方はこちらだけ!〉
ポイント解説

・会話できない特定技能外国人が急増中:特定技能外国人の方が技能実習生より日本語ができるとされています。しかし、ほとんど会話のできない特定技能外国人が急増しています。一方で、来日間もないのに簡単な日本語会話に対応できる優秀な技能実習生もいます。
・JFT-Basic 合格者の実際の日本語会話力:特定技能1号になるには、「日本語能力試験(JLPT)」か「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」に合格しなければなりません。JFT-Basicに合格した多数の人材に話しかけてきましたが、分かりやすく話しても、ほとんど理解しない人が多数でした。JFT-Basic A2は「簡単な日常会話や基本的な表現が理解できるレベル」とされていますが、現場ではそのレベルが確認できない状況です。試験対策に偏り、会話練習が不足していることも原因です。
・会話力を分けるのは特定技能か技能実習かではなく学習期間:来日前後の外国人材の会話力は特定技能か技能実習かによって大きく分かれるわけではなく、送出機関等の教育力や教育期間、本人の努力などで差がつきます。来日間もないのに会話力の高い技能実習生多数に取材した結果、母国で10~13カ月学習してきたという人がほとんどでした。
・対策:採用面接に合格してから来日するまでの期間は技能実習で平均6カ月、特定技能ではもっと短いです。日本語力の高い人材を雇用したい場合、面接前も含めて来日までの日本語学習期間をなるべく長く取ってもらうことが大切です。
・会話力不足の裏側―特定技能試験が日本語学習を妨げる:特定技能を目指す人材は技能試験の受験勉強に多大な時間を割かねばならず、その分、日本語学習がおろそかになります。送出機関の中には、JFT-Basicに合格させた後、日本語学習を休んで技能試験対策に1、2カ月間没頭させるケースもあります。
◆このページの内容
- ポイント解説〈時間のない方はこちらだけ!〉
- 外国人材の日本語力の価値
- 会話できない特定技能外国人が急増中
- JFT-Basic 合格者の実際の日本語会話力
- 会話力を分けるのは特定技能か技能実習かではなく学習期間
- 会話力不足の裏側:特定技能試験が日本語学習を妨げる
- まとめ
外国人材の日本語力の価値

特定技能外国人を雇うか技能実習生を雇うかを判断する場合、日本語力の観点から特定技能の方が良いと考える経営者もおられることと思います。私も日本語力が高い外国人材を雇うことを強くお勧めします。
特定技能・国内人材(すでに日本に住んでいる外国人材)の多くは日本語力が高く、海外人材も日本に来る前に半年以上、日本語学習を積み重ねてきます。しかし、海外人材の中には、来日時点でごく簡単な日本語さえ理解できない人材も多く、そのような人材は日本で2年働いても3年働いても日本語力があまり改善しないケースが多いです。
このため、外国人材受け入れ事業者が特定技能か技能実習かを検討する際、「日本語力にほとんど期待できない技能実習生より必要な日本語試験に合格した特定技能外国人を雇う方が良い」と考えることは理にかなっています。
会話できない特定技能外国人が急増中

ただし、ここで注意点があります。
実は、ほとんど会話のできない特定技能外国人が急増しています。特定技能外国人になるための日本語要件として日本語力試験N4相当への合格が定められていますが、試験には合格できても、会話力がほとんどない場合が非常に多いのです。
逆に、入国時点ですでに簡単な日本語会話に対応できる優秀な技能実習生もいるところにはいます。
なぜ、このような現象が起こっているのでしょうか?まず、特定技能の資格を得るために必要な日本語試験について説明します。
特定技能1号になるには、日本語試験と特定技能試験に合格しなければなりません。日本語試験については、「日本語能力試験(JLPT)」か「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」のいずれかに合格する必要があります。
日本語能力試験(JLPT)
日本語能力試験(JLPT)は、課題遂行のためのコミュニケーション能力を測定することに重きを置いた試験です。マークシート方式で、国内外で年2回だけ実施されています。
試験問題は言語知識(文字・語彙・文法)、読解、聴解の3つのカテゴリーで構成されています。特定技能1号になるには、N4レベル(5段階の下から2番目)以上に合格する必要があります。
国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)
ある程度日常会話ができて生活に支障がない程度の日本語力を持っているかどうかを測る試験です。パソコン画面で回答する形式で、国内外で年6回実施されています。特定技能1号になるには、A2レベル(6段階の下から2番目)以上に合格する必要があります。
文字と語彙 | ・生活場面で使用する日本語が読めるか |
会話と表現 | 生活場面の会話に必要な文法や表現を使用できるか |
聴解 | 生活場面で会話や指示を聞いたときに理解できるか |
読解 | 生活場面で手紙や説明、掲示を読んだときに理解できるか |
「JFT-BasicのA2レベルはJLPTのN4レベルと同等」とされています。しかし、実際にはJFT-Basic A2の方がJLPT N4より難易度が低いのとJLPTより実施回数も多いため、ほとんどの特定技能志望者がJFT-Basicに照準を合わせて学習し受験しています。
JFT-Basic 合格者の実際の日本語会話力

私はこれまでさまざまな機会に、実際にJFT-Basic A2に合格した何十人もの外国人材に日本語で話しかけてきました。外国人と話す際はいつも、なるべく簡単な単語を使い、複文を避け、大きな声でゆっくり話します。すると、私の話す日本語に部分的に反応し、何度もやり取りすると、最低限のことは理解してくれる外国人材もいますが、私がどれほど説明を変えてもほとんど理解できない人材もたくさんいます。どちらかというと、ほとんど理解できない人材の方が多数です。
特定技能・海外人材を雇用している受け入れ事業者からも「数年前に雇い入れた特定技能外国人は来日時点で簡単な日本語会話ができたが、最近入国した特定技能外国人はほとんど会話できない」といった嘆きの声をよく聞きます。
JFT-BasicのA2レベルは「簡単な日常会話や基本的な表現が理解できるレベル」で、仕事や生活をするうえで必要最低限の語学力があるとされています。しかし、実際のところは、この試験のレベルでは「必要最低限の語学力」を担保できていないということになります。
まず、JFT-Basicには「聴解」の問題も含まれてはいるものの、試験勉強だけで会話練習が不足するため、実践的な会話力が身に付かないようです。
また、JLPT・N4レベルに比べてJFT-Basic・A2レベルは簡単と言われており、複数の送出機関経営者も「JFT-Basicに合格したところで、日本語会話はまったく理解できません」と話しています。
会話力を分けるのは特定技能か技能実習かではなく学習期間

私は多数の外国人材に取材をし、話しかけてきました。例えば、海外の送出機関を訪問して取材する場合は、日本語学習を初めて5カ月以上経った人たちに大きな声でゆっくりと簡単な日本語で話しかけ、その反応・返答によって彼らの日本語力(送出機関の教育力)を確認します。
取材を積み重ねて分かったことは、来日前後の外国人材の会話力は特定技能か技能実習かによって大きく分かれるのではなく、送出機関の教育力や教育期間、本人たちの努力・能力で差がつくということです。
特に大きいのは送出機関などの教育力と教育期間(学習期間)です。
私は入国直後の技能実習生に対する「入国後講習」の中で失踪を防止するための授業を毎月2回担当しています。その授業には通訳が入りますが、中には私の日本語を聞いただけで驚いたり笑ったりという反応をする実習生も2割前後います。こうした実習生たちに休み時間に話しかけて聞くと、母国で10~13カ月学習してきたという人がほとんどです。受けた教育の内容も、母国語禁止の時間を設けたり、長い学習時間を設定したりするなど、高いレベルを想像させるものでした。
これらの実習生たちに「私が授業で話していることは何%ぐらい分かりますか」と聞いたところ、「50%ぐらい分かります」という答えが返ってきて、驚きました。この実習生たちは特定技能外国人にもなれたのですが、「先に技能実習の採用面接に合格したので、技能実習で来日することにした」と説明していました。勤務先は介護施設(調理)やそう菜工場などさまざまです。
採用面接に合格してから来日するまでの期間は技能実習で平均6カ月、特定技能ではもっと短いです。日本語力の高い人材を雇用したい場合、面接前の期間も含めて来日までに日本語学習期間を何カ月とってもらえるかが大事です。
会話力不足の裏側:特定技能試験が日本語学習を妨げる

送出機関への取材を日常的に重ねるうち、来日前の特定技能外国人の日本語学習を妨げる、ある重大なことが分かりました。
初めて日本に行く外国人材が1号特定技能外国人になるためには、日本語試験以外に働きたい産業分野の特定技能試験に合格しなければなりません。実際には、特定技能の仕事でそれほど細かい知識が必要ではないことも多いのですが、制度の立て付けとしては試験に合格できるほどの技能・知識を課しています。このため、特定技能を目指す外国人材は技能試験の受験勉強に多大な労力と時間を割かなければなりません。
海外の多くの送出機関等では、特定技能を目指す人材をJFT-Basicに合格させたうえで、特定技能試験の受験勉強をさせます。技能試験の受験勉強にたくさんの時間を割く分、日本語学習はおろそかになってしまいます。中には、JFT-Basicに合格した後、日本語学習をほぼ休んで技能試験対策に1、2カ月間没頭させるケースもあります。
語学学習は継続が大事です。せっかく力をつけても、学習を休むと実力が急速に落ちていきます。特定技能に必要なJFT-Basic A2に合格しからといって、初歩的な日本語会話すらできるわけではありませんが、その試験に合格しただけで日本語学習を長期間休むと、日本語力が一層低くなってしまいます。
最低限の日本語会話もできないような特定技能外国人が急増している原因の一つは特定技能の試験制度にもあると言えそうです。
まとめ

このページのまとめ
・特定技能外国人の方が技能実習生より日本語ができるとされています。全体的にはそうことが言えますが、ほとんど会話のできない特定技能外国人が急増しています。一方で、来日間もないのに簡単な日本語会話に対応できる優秀な技能実習生もいます。
・特定技能1号になるには、「日本語能力試験(JLPT)」か「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」に合格する必要があります。多くは難易度の低いJFT-Basicを受験します。この試験に合格しても、簡単な日本語会話もできない人がたくさんいます。受け入れ事業者からも特定技能外国人の日本語力の低さを嘆く声が多く聞かれます。
・来日前後の外国人材の会話力は特定技能か技能実習かによって大きく分かれるのではなく、送出機関の教育力や教育期間、本人の努力・能力で差がつきます。特に大きいのは送出機関等の教育力や教育期間です。
・来日して間もないのに日本語会話力の高い技能実習生たちに取材したところ、母国で10~13カ月学習してきたという人がほとんどでした。日本語力の高い外国人材を雇いたい場合、採用面接前の期間も含めて来日までの日本語学習期間をなるべく長くとってもらうことが大切です。
・特定技能を目指す場合、特定技能試験の受験勉強に多大な労力と時間を割かなければなりません。外国人材はその勉強に多大な時間を割く分、日本語学習がおろそかになってしまいます。