
日本語力が高い人も多く、日本人の考え方や日本の仕事文化への理解も深いため、さまざまな職場で重宝されている特定技能・国内人材ですが、雇用する側にとっては、早期離職者が比較的多いという留意点もあります。彼らは一度転職しているので、次の転職への心理的ハードルも高くないのかも知れません。それに加えて、特定技能外国人に転職を熱心に勧誘する転職ブローカーの暗躍も彼らの早期離職・転職に影響しています。
◆このページの内容
特定技能外国人の転職を促進するブローカーの存在

技能実習生は原則として転職できませんが、特定技能外国人は転職ができます。
彼らの転職を促進する要因として「特定技能外国人の転職ブローカー」の存在があります。彼らは友人・知人を介して外国人材に働きかけたりSNSを使ったりして転職に応じる人材を集め、仲介の人材会社などに紹介して手数料を受け取ります。転職を実現させて手数料を得たいがために、詐欺まがいの求人情報を拡散することもあります。
特定技能の転職ブローカーには主に次のような類型があります。
①SNSや個人のネットワークを使うブローカー
在留外国人が読むSNSページに「高収入の仕事」「すぐに働けます」などと外国語のPRを投稿・掲載するなどして応募者を勧誘し、受け入れ会社や人材紹介会社につないで手数料を受け取ります。個人のネットワークを使って特定技能外国人にしつこく勧誘するケースもあります。
②無許可業者による転職あっせん
有料職業紹介の許可を持たずに外国人材の転職を仲介する事業者で、外国人から「転職サポート料」や「紹介料」として紹介1人あたり数万~数十万円を受け取り、受け入れ企業からも手数料を取る場合があります。
③登録支援機関を装った転職あっせん
登録支援機関として転職をあっせんしますが、実際には支援業務を行なわないので、特定技能外国人が本来受けられる支援を受けられません。
組合のスタッフがブローカーだった事例
私が当事者周辺から具体的に聞いた事例では、技能実習の監理団体で働いているベトナム人通訳が、顧客の実習生受け入れ企業の実習生たちが実習を修了して特定技能に移行する際、別の企業に行くように勧めて転職させ、人材業者から手数料を受け取ったようです。このように自分の立場や人脈などを利用して特定技能外国人の転職をあっせんし手数料を稼ぐ「ブローカー」が暗躍し、特定技能外国人の職場定着を妨げています。
転職ブローカーによる受け入れ企業の被害

世にあふれる正規の人材紹介業者の求人情報に加え、このような転職ブローカーたちの詐欺まがいのあっせんや在留外国人ネットワークを活用したしつこい勧誘によって、多数の特定技能・国内人材が転職しています。
職場の雇用条件や支援が不十分でもともと特定技能外国人が大きな不満を持っていた場合ならまだしも、執拗な勧誘や詐欺まがいの高給提示によって、不満なく働いていた外国人材が引き抜かれていく場合もあります。これは、まじめな受け入れ事業者にとって非常に迷惑で大きな痛手です。
特に被害を受けやすいのは地方の中小企業です。これらの企業は「地方は都会と比べて給料が安い」「都会には母国の仲間が多いが、地方には少ない」「地方は都会と比べて生活も買い物も不便」といったさまざまなビハインドを背負いながら、自社にできる精一杯の給与・待遇を提供し、給与以外の面でも配慮・工夫を重ねて外国人材の長期定着に向けて努力をしています。
こうした会社が自社の特定技能外国人をしつこい勧誘や詐欺まがいの好条件提示で引き抜かれた場合、その痛手は計り知れません。新たに紹介手数料などを払って新しい人材を雇い、手間ひまかけて仕事を教えて、定着に向けてまた一から努力を積み上げていかなければなりません。そのうえ、手慣れた人材が抜けることで当面の生産力も下がってしまいます。
不要不急の転職は外国人本人にもデメリット
また、相応の理由なく転職を繰り返すと、外国人材本人にとってもキャリアに傷がつくことになります。日本では転職があまりに多いと、新たに転職しようとする際に受け入れ企業が採用に慎重になります。また、ブローカーに促されて転職を繰り返していると、採用面接で過去の転職の経緯・理由を聞かれた際に次第にまともな説明ができなくなっていきます。
さらに、転職を何度も繰り返すと、入管で在留資格変更や在留期限更新を申請する際にも審査が慎重に行なわれるようになります。
もとの受け入れ会社の事情や外国人本人のキャリアに一切配慮することなく、ひたすら金銭目的で特定技能外国人の転職を促す転職ブローカーの活動は大きな問題です。
転職ブローカーへの対策

特定技能・国内人材を雇った場合に転職する可能性が高いのは、このような転職ブローカーの存在も手伝っているからです。
ちなみに、紹介を受けた外国人材が半年以内に離職した場合は人材紹介会社から補償を受けられることも多いですが、半年を超えて離職した場合は補償がありません。このため、転職ブローカーが外国人材に新職場で半年あまりだけ働かせ、その後また転職させて、次の会社や人材紹介会社から転職あっせん報酬を再び受け取るケースもあります(その場合、外国人材本人も報酬の一部を受け取る場合があります)。
転職ブローカーへの制度的な対策
転職ブローカーへの対策としては、入管が登録支援機関の業務内容を厳しく監督し、名義だけの登録支援機関への規制を強めることや、SNSなどを使った不正仲介を監視し摘発することなどが提案されており、行政の対応が待たれます。
受け入れ事業者としての対策
受け入れ事業者にできる対策としては、特定技能・国内人材を雇う際は、その人材がどのような経緯で転職するのか、どのようなルートで紹介されたのか、しっかり確認するようにしましょう。そして、紹介ルートが不審だった場合は、採用を慎重に検討してください。
また、特定技能か技能実習かを検討する場合、特定技能・国内人材は比較的転職しやすいというリスクを頭に入れ、リスク分散として、技能実習生や初めて日本で働く特定技能・海外人材も含めた外国人材の構成を検討するのも一考です。
まとめ

このページのまとめ
・特定技能外国人の転職を促進する要因として「転職ブローカー」の存在があります。彼らは個人的な人脈を活用して外国人材に働きかけたり、SNSを使って求人情報を拡散するなどして、転職に応じる人材を集め、受け入れ企業などにつないで紹介手数料を取ります。詐欺まがいの求人情報を拡散することもあります。
・転職ブローカーの形態としては、「 SNSや個人の人脈を使うブローカー」「無許可業者による転職あっせん」「形だけの登録支援機関による転職あっせん」などがあります。
・執拗な勧誘や詐欺まがいの高給提示によって、大きな不満なく働いていた特定技能外国人が引き抜かれる場合もあります。引き抜かれた事業者は、新しい人材を雇うための紹介手数料や新しい人材に仕事を一から教える労力、当面の生産性低下など、大きな損失を被ります。
・大きな理由なく転職を繰り返した場合、外国人本人にとっても、キャリアに傷がつくことになります。また、入管で在留資格変更や在留期限更新を申請する場合も、審査が厳しくなる可能性があります。
・転職ブローカーへの対策としては、入管が登録支援機関の業務を厳しく監督し、名義だけの登録支援機関への規制を強めることや、SNSなどを使った不正仲介を監視し摘発することなどが指摘されています。
・受け入れ事業者にできる対策としては、特定技能・国内人材を雇う場合、その人材がどのような経緯・理由で転職するのか、どのようなルートで新しい仕事を紹介されたのか、しっかり確認するようにしましょう。