
日本に住む外国人が増え、外国人の受け入れ方針や共生社会の推進が課題となっています。このため、関係閣僚会議は2026年1月、「外国人の受け入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」(通称・総合的対応策)を閣議決定しました。これは今後の外国人政策の方向性を示す指針です。前編に引き続き、総合的対応策のうち外国人雇用に特に関係が深いテーマを取り上げ、背景説明を加えながら分かりやすい言葉で説明します。
◆このページの内容
[前編の内容]
不法滞在者の厳格な取り締まりなど

① 偽変造在留カード対策や不法就労を助長する者の取締りの強化等
現状と問題点
・2024年に退去強制手続等の対象となった外国人約18,900人のうち約8割(約14,400人)に不法就労の事実が認められました。
・偽変造された在留カードや失効済み在留カードを用いて適法就労を装う事案も多発しています。入管当局が把握しただけでも約1万件の偽造在留カード関連データが発見されています。
実施中の対策
・入官庁は外国人を雇用する事業者に対し「在留カード等読取アプリケーション」や「在留カード等番号失効情報照会」の活用を呼びかけています。これによって在留カードのICチップ情報の読み取りやカード番号が失効していないかの確認ができます。
・不法就労助長者(受け入れ企業等)については、刑事責任の有無にかかわらず、入管法に基づく退去強制手続を活用するなど抑止力を高める対応を行なっています。
すみやかに実施すべき対策
・「在留カード等読取アプリ」と「在留カード等番号失効情報照会」をシステム上で連動させ、確認作業を一体的に行える仕組み作りが求められています。
・高い塀で囲まれた敷地内で無許可で自動車解体や金属スクラップの保管等を行う、いわゆる「不適正ヤード」は外国人の不法就労の温床と指摘されています。警察、自治体、入管当局などが連携し、廃棄物処理法や建築基準法などへの違反が確認された場合、営業停止命令や事業許可取り消しなどの対応を徹底すべきです。
今後の課題
・国や自治体、警察、労働関係機関などがより密接に連携し、外国人を含む住民からの相談や情報提供に迅速・的確に対応できる体制を整備することが重要です。
・相談対応や行政手続の過程で得られた情報を活用し、不法就労をはじめとする違法・不正事案の早期把握と効果的な取り締まりにつなげる仕組み作りが求められています。
② 外国人雇用状況届出制度の運用改善
現状と問題点
・不法就労防止のため、事業者が外国人を雇用する際には、在留カード等で就労の可否を確認することが求められています。しかし、在留カードが偽変造されている場合、目視だけで見抜くことは困難です。
・雇用主には、外国人労働者の雇い入れと離職のときに、氏名・在留資格・在留期間などを「外国人雇用状況届出制度」に基づき厚生労働大臣(実務上はハローワーク)に届け出る義務があります。しかし、未届や虚偽届が多いと指摘されています。
・届出義務違反に対する摘発件数は少数にとどまっています。
実施中の対策
・「在留カード等読取アプリ」の活用を促す広報が行なわれています。
すみやかに実施すべき対策
・入管庁と厚生労働省が連携を強め、受け入れ企業等に「在留カード等読取アプリ」の使用や外国人雇用状況届出を徹底させることが必要です。
③ 外免切替の厳格な運用等
現状と問題点
・いわゆる「外免切替(外国免許切替)」によって日本の運転免許を取得した外国人による交通事故が発生しており、その中には、日本の基本的な交通ルールを十分に理解していないとみられる事案もあります。
・外免切替制度は、本来、海外で適正に運転経験を積んだ人が日本の免許制度に円滑に移行するための制度です。しかし、海外では免許取得時に一定期間の居住や在留資格を求める国が多いのに、日本では長らく、短期滞在の観光客でも外免切替が可能となっていました。
実施中の対策
・政府は道路交通法施行規則を改正し、2025年10月から、外免切替時と免許証更新時の住所確認を厳格化しました。これにより、実態のない住所申告や短期滞在者による免許取得が難しくなりました。
・外免切替手続における知識確認および技能確認についても見直されました。
今後の課題
・今後は、改正後の規則に基づき外免切替や免許更新時の運用を徹底することが重要です。
・在留外国人への免許制度のあり方について、諸外国の制度についての調査や日本での交通事故発生状況などを踏まえて引き続き検討する必要があります。
秩序ある地域社会の実現に向けた受け入れ環境整備

現状と問題点
・外国人の受け入れが拡大する中で、生活相談や行政手続対応、地域住民との調整など、自治体の現場負担が増大しています。こうした負担への対応や、国と自治体、受け入れ事業者の役割分担も検討課題となっています。
・在留外国人には、日本語の習得に加え、日本の生活習慣や社会制度、法令・ルールを理解し、地域社会の一員として責任ある行動をとることが求められます。しかし、外国人がこれらを分かりやすく学ぶ機会は限られ、学習への動機付け(インセンティブ)も不十分です。
実施中の対策
・国は、在留外国人に対する情報提供や相談を行う「一元的相談窓口」を設置する自治体に交付金を支給しています。
・自治体や関係機関の職員を対象に、外国人の生活課題を適切な支援につなぐ役割を担う「外国人支援コーディネーター」の育成・認証制度も運用されています。
・国は情報提供の面では、日本での生活ルールや仕事、税金、社会保険などを紹介する「生活オリエンテーション動画」(17言語)をYouTubeで公開しているほか、「外国人生活支援ポータルサイト」を通じて、社会制度や行政情報を多言語(109言語に自動翻訳)で発信しています。
・2024年度からは、法務省職員が入国前後の外国人を対象とした民間主催の「対話型オリエンテーション」に参加し、外国人の疑問を直接聞き取ったうえで日本の制度やルールを説明する双方向型の取組も試行しています。各自治体でも総務省の「地域における多文化共生推進プラン」を踏まえた施策づくりが進められています。
すみやかに実施すべき対策
・「生活オリエンテーション動画」へ誘導する広報動画を制作すべき。
・双方向型の「対話型オリエンテーション」を国主導で実施すべき。
今後の課題
・交付金の見直しなどによる相談窓口の質の改善が求められます。
・自治体が国に相談しやすい体制の整備や、外国人在留支援センター(FRESC)型相談窓口の地方展開なども重要です。
・在留外国人が日本語や日本の制度・ルールを体系的に学ぶ共通プログラムを創設することが求められています。それらの理解度を在留審査で勘案するかどうかも今後の論点です。
・受け入れ企業等が外国人従業員や家族への日本語教育や生活ルール指導について果たす役割をより明確にすることも課題です。
入管行政の基盤整備

在留外国人の増加に伴い、在留審査増加や不法就労対策など入管当局の業務量は増大しています。これに必要な財源を確保し、対応できる体制を整えることが必要です。
① 在留許可手数料の見直し等
現状と問題点
・外国人を適正に受け入れ、秩序ある地域社会を維持するためには、在留審査の厳格化や不法就労対策、相談体制の充実、日本語教育や生活支援施策など、多岐にわたる取組が必要です。
・外国人関連施策の受益者でもある在留外国人に一定の費用負担を求めることは、受益者負担や制度持続の観点からも合理的とされています。
すみやかに実施すべき対策
・2026年度中に在留許可手数料を引き上げることが求められています。
・オンライン事前入国審査制度JESTA(日本版ESTA)についても、主要国の電子渡航認証制度(米国のESTAや欧州のETIASなど)の手数料も参考に、適切な手数料設定を行うべきです。
② 査証手数料の見直し
日本を訪れる外国人の目的は観光、就労、留学、経営など多様化しており、それに伴って査証(ビザ)発給業務も増えました。それに対応するコストへの財源確保が課題となっています。
現状と問題点
・日本の査証手数料は1978年以来、見直しが行われておらず、現在は主要国と比べて著しく低くなっています。
・一方、日本の査証発給件数は大幅に増加しており、審査を担う在外公館では人員確保やシステム整備など体制強化が課題です。さらに、虚偽申請や要件を満たさない反復申請への対応も負担を増大させています。
すみやかに実施すべき対策
・2026年度中に査証手数料を引き上げるべきです。これは単なる財源確保にとどまらず、安易な申請や不適切な繰り返し申請を抑制する効果もあります。
まとめ

このページのまとめ
在留資格の審査の厳正化
現在、入管庁と税・社会保険・雇用を所管する各行政機関との情報連携は発展途上で、在留状況と公的義務履行状況を横断的に把握する仕組みが限定的です。このため、不法就労や制度の不適正利用を事前に把握し在留審査に反映させることが十分にできていません。
今後は、マイナンバーや公共サービスメッシュを活用し、税・社会保険・雇用・在留資格に関する情報を連携させることで、在留審査の厳格化と社会保障制度等の適正利用を図る必要があります。
特定技能制度・育成就労制度の適正化
特定技能制度と育成就労制度については、分野別運用方針の明確化、受け入れ見込数(上限)の適切な設定、転籍制限の合理的設計、評価試験合格証明書の偽変造防止など、制度を適切に運用するための具体策が必要です。また、地方における人材確保への配慮を欠かさないことや、外国人育成就労機構が外国人材を十分に支援・保護できる体制整備も重要です。
在留資格「経営・管理」の適正化
「経営・管理」については、事業実態のない申請や在留があります。同一ビルに事務所が集中するなど疑わしい案件については、実態調査を特に徹底し、事業実態が確認できない場合には在留期間更新を不許可とするなどの対応が求められます。
在留資格「技術・人文知識・国際業務」の適正化
「技術・人文知識・国際業務」については、特に派遣において、本来認められない業務に従事させている事案が多いと指摘されています。実地調査を増やして審査を厳格化するとともに、派遣元に業務内容の適法性を誓約させるなど実効性ある対策が求められます。
在留資格「留学」の適正化
「留学」については、オーバーワークが問題です。外国人雇用状況届出やマイナンバーを活用した所得情報の把握などによってより的確な状況把握を行ない、在留審査をより厳正に行なうことが求められます。日本語学校等による出席管理や指導強化も不可欠です。
永住制度と帰化制度の見直し
永住許可については、許可基準や取消制度の見直しが進められています。公租公課の不履行等を取消事由とする法改正を踏まえ、ガイドラインを整備することが重要です。
帰化制度については、永住許可との整合性を考慮しつつ、「日本社会に融和していること」の要件をより厳格化する方向で検討が進められています。
不法滞在者の厳格な取り締まり等
偽変造在留カードの使用は依然として多く確認されており、雇用主による在留資格確認の徹底が不可欠です。在留カード読取アプリの活用促進に加え、不法就労を助長する事業者への厳正な処分などを通じて、不法滞在・不法就労を抑止する必要があります。
秩序ある地域社会の実現に向けた受け入れ環境整備
外国人が日本社会になじむためには、日本語能力の向上に加え、法令・生活ルール・社会制度などへの理解が不可欠です。自治体の一元的相談窓口の充実、双方向型オリエンテーションの拡充、体系的な日本語・生活教育プログラムの整備などを通じ、実効性のある共生施策を進める必要があります。
入管行政の基盤整備
在留資格審や不法就労対策などの入管行政を推進するため、在留査証等の手数料を見直して財源を確保し、職員増員や体制強化を図ることが必要です。