
外国人材に定着してもらうには、地域や業界での相場を意識した給与設定を心がける必要があります。大事なのは残業代を含む手取り給料の設定です。外国人材は同僚・友人・知人らと自分の手取り給料について教え合い、SNSでも情報を集め、その地域・業界の給与相場を知っています。受け入れ事業者もそのような相場を知り、手当を付けたり残業を増やしたりして、相場を意識した手取り給料を提供することが外国人材の職場定着には必須です。
1分で読める記事の要点〈時間のない方はこちらだけ!〉
ポイント解説

◎外国人材が日本で働く最大の目的はお金です。このため、外国人材に長く定着してもらうには適正な給料設定が最も大事です。定着には給与以外の配慮も必要ですが、まずは自社の業界・地域での相場を意識した手取り給料を設定することが第一条件です。
◎日本の外国人材の多くは互いの手取り給料について情報を交換し合います。情報開示には寛容で、給与明細を見せ合うことも珍しくありません。このため給与の相場をよく知っています。
◎技能実習生の場合、額面給料から税金や社会保険料と寮費を差し引いた「手取り給料」の額を周囲と比較して不満に思ったり満足したりしています。
◎日本人スタッフを募集するための広告費や、短期間で辞められてまた募集する広告費、雇うたびに仕事を教える手間などを考えると、相場を意識した給料を提供して外国人に定着してもらう方がトータルコストが小さく済む場合があります。
◎日本で働く外国人材の中には「残業をある程度たくさん引き受けてでも手取り給料をたくさんもらいたい」と思っている人が多いことも知っておきましょう。
◆このページの内容
- ポイント解説〈時間のない方はこちらだけ!〉
- 日本で働く最大の目的はお金
- 外国人労働者は給与明細を見せ合う?
- 外国人労働者たちの生の声
- トータルコストで考える
- 外国人労働者は残業がある程度多くてもかまわない
- まとめ
日本で働く最大の目的はお金

大半の在日外国人にとって日本で働く最大の目的はお金です。給料以外の待遇や気遣いも欠かせませんが、給料が相場より大幅に低い場合、長く働いてもらうことは難しいでしょう。「外国人だから安く雇える」という考えは時代遅れで、長く定着してもらいたいなら、外国人に対しても最低賃金を守るのは当然のこと、同じ学歴や能力の外国人が同業他社でもらっている給与相場を意識した給料を設定することが大前提となります。
日本に人材を輩出している国々の多くでは、同じ職場で長く働く人は必ずしも多くはなく、転職を繰り返しながらキャリアアップを目指す人は珍しくありません。外国人材が日本で働く場合も、「一つの職場で長く」を大前提として働く人は必ずしも多くはありません。
外国人労働者は給与明細を見せ合う?

外国人材が日本で働く最大の目的はお金です。ですから、外国人材の長期定着のためにはまず給与(手取り給料)の設定が一番大事です。もちろん、定着には給与以外の様々な配慮も必要ですが、相場を意識した手取り給料の支給が大前提となります。
相場を意識した給与設定を
技術・人文知識・国際業務(技人国)の在留資格(通称・ビザ)で働く外国人にも、自分の経験や能力をより高い対価(給料)で買ってくれる職場があれば移りたいと思っている人が多いですし、特定技能外国人は、転職ブローカーが活発に動いていることも手伝って、少しでも時給が高い職場が見つかると簡単に転職する傾向があります。
外国人労働者が職場に定着する動機は給料だけではありませんが、同地域・同業種の中で相場からかけ離れて低い給料を設定すると、早期離職の大きな原因になります。実際、より高い給与水準を求めて地方から都会に移る外国人が多くいます。
また、同じ仕事の日本人と比べて待遇に格差があると、外国人材の離職率は高くなります。同一労働・同一賃金の原則は外国人に対しても適用しなければなりません。
やりがい重視の人も給料を自分への評価ととらえる
収入よりやりがいや経験を重視する外国人も中にはいますが、決して多数ではありません。それに、そのような人でも、相場とかけ離れた給料だと、「この会社は外国人材の立場や思いを理解していない」とか「この会社は私の価値を過小評価している」と受け止めるので、適正な給料を払わないと、そう長くは定着してくれません。
給与明細を見せ合うことも
技能実習生は原則として3年間転籍できませんが、仲間同士で給料に関する情報は交換し合います。特定技能外国人も同様です。例えば、同じ送出機関から日本に来た仲間たちの間であったり、SNSを通じて知り合った友だちとの間であったり、サッカーチームに集まった仲間との間であったり、様々な場面で自分たちの給与について情報を交換し合っています。彼らは全体的に情報開示に寛容で、給与明細を見せ合うことも珍しくありません。
このため、技能実習生は同地域・同業種の給与相場をよく知っており、自分の給料(税金・社会保険・寮費を引いた手取り給料)が相場より低いと、失踪の大きな動機になります。失踪せず3年間働いてくれる場合でも、「実習を修了して特定技能に移行するときは他社に移ろう」と心に決めて働くということになってしまいます。
外国人労働者たちの生の声

技能実習生に対しては、監理団体のスタッフが定期的に訪問して仕事や生活の状況を聞きます。特定技能外国人についても、登録支援機関がそのようなサービスを行うことがあります。また、これらの人材を送り出した外国の人材会社(送出機関等)の幹部が定期的に日本を訪問し、自分たちの送り出した人材を訪問して様子を聞くこともあります。
筆者がそのような訪問に何度か同行したところ、外国人材が訴える事がらで一番多いのは、残業代や昇給、寮費など、「手取り給料」に関する事柄でした。技能実習生の場合、額面給料から税金・社会保険・寮費を差し引いた額を「手取り給料」ととらえており、その額が彼らの最大の関心事になっています。
例えば、地方の介護職場で働く特定技能外国人は、働いて1年経ったのに、昇給の約束が守られていないということを一生懸命訴えていました。建設の技能実習生は、給与から差し引かれる光熱費が高すぎるのではないかと疑念を持っていました。また、別の会社の建設の技能実習生は出張先の現場で一緒になった他者の特定技能外国人たちが「出張手当」をもらっているのに、自分たちにはそのような手当がないのはおかしいと強く訴えていました。

このような訴えの中には誤解に基づくものや不当な要求もあります。そのような場合、監理団体等に協力してもらいながら適切な説明をすることが大切です。
しかし、彼らの訴えの中には正当な訴えもあります。そのような場合、監理団体等と相談しながら、改善について検討することが大事です。まして、残業代不払いや昇給の不履行など、労働法令違反や契約違反は検討の余地なく改善が必要です。
多くの外国人材にとって日本で働いている最大の目的はお金もうけです。他にも様々な目的がありますが、第一目的であるお金もうけを十分に達成できなければ、彼らにはその会社にとどまる理由がありません。
トータルコストで考える

多くの企業にとって、賃上げは簡単な課題ではありません。ただ、必要な労働者を確保していくためのトータルコストについて考えなければなりません。
多額の広告費を使って日本人従業員を募集しても応募者がなかなか集まらない。わずかな応募者の中から採用してもすぐに辞めてしまう。外国人労働者を雇う前にこのような経験をした経営者も多いのではないでしょうか。
そこで、日本人を募集するたびにかかる求人コストや新たに雇うたびに仕事を教える手間、欠員が生じた場合の生産性低下といったコストと、適正な給料を設定して外国人材に定着してもらうためのコストを天秤にかけ、トータルコストが小さい方を選んでみてはいかがでしょうか。
技能実習や新たに導入される育成就労の場合、基本的には3年間の継続就労が原則となっており、手取り給料等に配慮すれば、労働者が3年間定着してくれる可能性がそれなりに見込めます。特定技能外国人も、日本人労働者が集まらない職場に定着している事例がたくさんあります。
外国人の給与を設定する際、日本人を募集するための広告費や、短期間で辞められてまた募集するための広告費、雇うたびに仕事を教える手間などを考えると、手取り給料の額に配慮して外国人に定着してもらう方がトータルコストが小さいということを意識しましょう。
外国人労働者は残業がある程度多くてもかまわない

外国人労働者に定着してもらうためにまず大切なことは、その業界やその地方での給与相場を意識して給与を設定することです。外国人労働者たちは自分たちのコミュニティーの中で給与に関する情報を提供し合い、相場を知っています。相場に比べて、自社の給与があまりに低いことがわかると、その職場で長く働きたいとは考えません。監理団体や登録支援機関に相談するなどし、地域や業界の給与相場を意識しながら、外国人の給与を設定してください。
その際、大切なのは手取り給料の額(税金・社会保険・寮費を差し引いた額)です。外国から日本に働きに来ている人の場合、基本給が少し低めでも、残業代がそれなりにあって手取り給料が高ければ、満足してくれるケースもあります。
日本人の若者には残業を嫌う人も増えましたが、外国人労働者には「残業をたくさん引き受けてでも手取り給料をたくさんもらいたい」という人の方が多いです。そのことを理解し、外国人材に工夫して安定的に残業を割り振っている会社もあります。
まとめ
このページのまとめ
日本人を募集するために多額の広告費を支払ったのに、応募は少なく、少ない応募者の中から選んで雇っても短期で辞められる。そのような経験をお持ちの事業者も多いことと思います。それに比べると、外国人労働者は比較的募集しやすく定着の可能性も高いです。ただし、外国人に定着してもらうには、その地域や業界の中での相場を意識した給与設定を心がける必要があります。
外国人労働者が日本に来る最大の目的はあくまでもお金稼ぎです。彼らは同僚・友人・知人らと自分の手取り給料について教え合い、SNSでも情報を集め、その地域・業界の給与相場を知っています。受け入れ事業者は監理団体や登録支援機関に相談するなどして外国人の給与相場を知り、相場を意識して給与設定をすることが、外国人労働者の定着にとって最も重要です。
その際、大切なのは手取り給料です。基本給の引き上げに限界がある場合は、手当や残業代をつけて手取り給料を相場以上に設定する配慮が必要です。外国から日本に来ている労働者の中には、「残業をたくさん引き受けてでも手取り給料をたくさんもらいたい」という人が多いことも意識しておきましょう。