採用ノウハウ

〈外国人採用の鉄則〉外国人材の求人をめぐる業界の常識とは?:②

海外で日本の求人の人気が下がっています。送出諸国の人材は世界規模で取り合いになっており、日本の受け入れ事業者が今後も外国人材を安定的に確保していくためには、状況を理解して受け入れ条件を改善していくしかありません。求人を出す際の「年齢条件」や「応募倍率」について実情を紹介するとともに、特定技能2号の人気と求人時の対応、派遣外国人材を雇う際の注意点についてもお伝えします。

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ポイント解説

募集現場で始まった日本の求人の苦戦:2025年現在、韓国や台湾、欧州などからの求人に対するベトナムでの応募者集めは好調ですが、日本の求人だけが不人気で、「一人負け」の状況です。日本の魅力が低下し逆に人材獲得をめぐる国際競争は激化する中、日本が十分な外国人材を確保していくためには、(国籍にかかわらず)受け入れ条件を改善していくしかありません。

年齢設定を柔軟に考える:不人気職種では、若い応募者が集まりにくくなっています。しかし、30代・40代の外国人材が20代よりもずっと高いパフォーマンスを発揮して働いている例がたくさんあります。それ以外の職種でも、給与水準によっては求める年齢を再検討すべき場合があります。

応募倍率にこだわりすぎない: 募集環境の実情に反して高い応募倍率を要求すると、“さくら”の応募者を集めるための支出が増え、そのコストは最終的に外国人材の負担になります。多額の借金をかかえた外国人材は給与だけ関心が集中し、なかなか職場に満足しない傾向があります。

特定技能2号移行に向けたサポート:家族を日本に呼べて永住権取得への道も開かれる2号特定技能は外国人材に人気です。2号になるために必要な実務経験ポスト(リーダー職)を設け、求人票などに記載すると応募が増えます。

派遣外国人材を使う際はここに注意:派遣外国人材の入れ替わりが激しい場合は、どのような条件で採用されたのか外国人材にヒアリングをしてください。その結果、自社の労働条件(残業時間など)と採用時の求人条件がかけ離れている場合、派遣会社が不適切な求人をしている可能性があります。また、在留資格と仕事内容が合致しているかもチェックしてください。

◆このページの内容

の内容]

    [③の内容]

    募集現場で始まった日本の求人の苦戦

    ベトナムで「一人負け」状態の日本の求人

    近年、ベトナム人材のまじめさや勤勉さなどが魅力で、諸外国からベトナムに大型の設備投資が相次ぎ、ベトナム国内での工場労働者の求人も増えました。このため、ベトナム国内の日経企業の工業団地でも立地が悪いと人材が全然集まらず、人手不足が蔓延しているそうです。

    複数の送出機関によると、こうしたベトナムの国内事情もあり、日本からの求人への応募者が同国で激減しています。

    日本とベトナムの賃金格差が大幅に縮小し、今や韓国で働く方が給料が高いことや、台湾なら面接に合格してから1カ月以内に就労できることなど、日本の就労条件の悪さも背景にあります。

    2025年現在、韓国や台湾、欧州などからの求人に対するベトナム人の応募者集めは好調ですが、日本の求人だけが不人気となっており、「一人負け」の状況だそうです。

    このため、ベトナムから日本に特定技能外国人や技能実習生を雇い入れる場合、農業・繊維・建設といった不人気職種だけでなく、それ以外の職種でも応募者の年齢層が上がっています。

    他の国でもやがて同じ状況に

    このような状況について「人材ルートをベトナムから他の国に移行すれば大丈夫」と考えるかも知れませんが、そう簡単な話ではありません。

    ベトナムからの海外就労先は、台湾に抜かれるまでは日本がトップでしたが、そのベトナムでさえ、日本の人気がここまで低下してしまいました。

    世界的な人材不足の進行で、世界各国との人材獲得競争がこれからどんどん激化していく中で、ほかの送出諸国からの人材獲得もだんだん難しくなっていきます。

    しかも、日本があてにする人材送出諸国にとって、海外就労先としての日本の存在感はこれまでそれほど大きくありません。

    インドネシアからの海外就労先(2023年)

    台湾・マレーシア・香港で計8割。日本に行く人は4%。

    ネパールからの海外就労先(2021年)

    中東諸国が大半で、日本はわずか1%。

    ミャンマーからの海外就労先(2022年)

    タイ・マレーシア・シンガポールに9割近くが渡航し、日本に行くのは8%。

    日本の受け入れ事業者が外国人材を十分に確保していくには、国籍に関係なく労働条件の改善や生活サポートなどさまざまな努力を積み重ねていくしかないのです。

    年齢設定を柔軟に考える

    さまざまな現場で中年の外国人材たちが活躍

    特定技能外国人や技能実習生を外国から呼び寄せる場合、求人の年齢を柔軟に考えてください。

    建設や農業といった不人気職種では、国籍によっては若い年齢の応募者が集まりにくい状況ですが、30代・40代の外国人材が現場で20代よりもずっと高いパフォーマンスを発揮している例がたくさんありますので、そのことも知っておいてください。

    年齢制限がネックで応募者が集まらなかった事例

    これは地方の機械組み立て工場での話です。その工場では約20人の外国人材(技能実習生と実習生から繰り上がった特定技能外国人)が働いています。これまで25歳以下のベトナム人女性を数回採用し、多くが日本に残って仕事をしています。

    ところが、2024年に以前と同じ条件で2名を採用しようとしたところ、面接予定日までに十分な応募者が集まりませんでした。そのようなことが2回続き、その年は技能実習生の新たな採用を見送ることになりました。

    2025年になって別の送出機関に依頼し、再び25歳以下の女性を2人募集しました。しかし、この送出機関でもともと日本語を勉強している候補者が数十人いましたが、その中でこの求人に応募する人はいませんでした。

    日越の賃金格差が縮まったのと円安も進んだことで、ベトナムで25歳以下の女性を集めるのは、同社の給与水準では難しいとのことでした。

    このため、送出機関は個人の人材紹介業者(ブローカー)に依頼して応募者を募りましたが、やはり面接予定日までに十分な応募者が集まりませんでした。送出機関は面接を約10日間延期してもらい、今度はブローカーを大幅に増やして再挑戦したところ、やっと25歳以下3人と29歳・30歳が1人ずつ集まりました。このうち25歳以下の3人が採用されました。

    送出機関幹部は「30歳前後まで年齢条件を引き上げてくれれば、もっと楽に人材をそろえることができた」と話しています。受け入れ会社社長は昔とは状況が大きく変わったことを認識し、次回の求人では年齢について再考するとのことです。

    30代・40代の外国人材が大活躍

    不人気業種では、30代・40代の技能実習生や特定技能外国人を雇用する例も増えており、働きぶりが良いと好評です。ある監理団体関係者によると、「建設や農業といった不人気職種の現場では、30代・40代の外国人材方が20代より高いパフォーマンスを発揮して活躍している」とのことで、今後も中年の外国人材の就労が広がっていくと予想されます。

    ただし、20代の外国人材と比べると日本語を覚える力は劣るので、受け入れ事業者が言葉の壁をカバーできるように配慮する必要があります。

    応募倍率にこだわりすぎない

    かつてベトナムで技能実習生を募集する際には、求人数の3倍の候補者が簡単に集まりました。ところが、新型コロナの感染拡大を期にベトナムから日本への渡航熱が冷め、感染収束後も日本人気が復活しませんでした。これには日越間の賃金格差の縮小や円安が大きく影響しています。

    そこで、よほど良い条件でない限り、求人の3倍の応募者を集めるのは難しくなっています。

    ところが、送出機関によっては、顧客(監理団体)の歓心を得るために希望の応募者数を集めると安請け合いすることがあります。これには注意点があります。複数の送出機関によると、その場合、「さくら」の応募者が含まれる可能性が高いそうです。

    この「さくら」の応募者を1人集めるだけでも、送出機関からブローカーに数万円の紹介謝礼を支払います。その額はさくら1人につき5万円の場合もあります。こうした費用はすべて、面接に合格した外国人材が送出機関に支払う費用に上乗せされます。

    余計な費用負担を上乗せされた外国人材は日本に来てから給与だけに関心が集中し、給与以外の諸条件になかなか満足してくれない傾向があります。

    人材募集の実情を理解せず高い応募倍率を要求すると、“さくら”の応募者を集めるための支出が増え、そのコストは最終的に外国人材の負担になります。借金をたくさんかかえた外国人材を雇用すると、おカネにだけ関心が集まって職場に満足してもらうことが難しくなります。

    特定技能2号移行に向けたサポート

    2号特定技能外国人になると、次のようなメリットがあるため、日本で働く外国人から大きな注目を集めています。

    • 家族(配偶者や子)を日本に呼び寄せることができる。
    • 通算の在留期間に制限がなくなる。
    • 2号として日本で一定期間働くと、永住権を申請できる。

    永住権を取得すると、もとの国籍を保持したまま日本への出入りが自由になりますし、日本で仕事をする際の職種などの制限がなくなります。住宅ローンを借りる際の信用も高まり、持ち家を持つことも容易になります。

    日本に実際にいつまで住むかは別にして、永住権を取得できるのであれば取得したいという外国人は多いです。このため、家族を呼べて、好きな時期まで日本で働けて、そのうえ永住権への道筋にもなる特定技能2号の人気は高いのです。

    実務経験要件のためのポスト

    特定技能外国人の就職斡旋を行っている日本の人材会社によると、求人を見た外国人材からの問い合わせで目立って多いのは、「求人を出している会社が特定技能2号になるためのポストを用意しているかどうか」ということだそうです。

    2号特定技能外国人になるには、1号のときに勤務先でリーダー的な仕事を経験しなければなりません(実務経験の要件)。したがって、2号になりたい外国人材はそのようなポストを提供している会社を選ぶことになります。

    1号特定技能外国人を募集する際、2号になるための実務経験ポストを設け、求人票や資料で紹介すると、応募が増えます。

    試験対策サポート

    2号になるには技能試験にも合格しなければなりません。試験対策の問題集がオンラインで無料提供されていますが、その問題には専門用語もたくさん含まれ、内容を理解するだけでも難しいので、ある会社は自社の1号特定技能外国人たちと一緒に問題文を読み解き、解答を一緒に考えるという勉強会(勤務時間外)を毎週1回提供しています

    このようなサポートも求人票や資料で紹介すると、応募者増につながります。

    派遣外国人材を使う際はここに注意

    外国の大学で日本の求人が紹介されています(イメージ写真)

    派遣外国人材の入れ替わりが激しい場合

    派遣の外国人材が次々に入れ替わる場合があります。人が代わっても、新しい人材を安定的に派遣してもらえれば、受け入れ事業者としては、仕事は回ります。しかし、派遣会社の採用方法に問題がある場合、海外就労先としての日本の評判や人気をさらに下げることにつながります。そうなると、最終的には個々の受け入れ事業者の外国人材確保にも影響が出ることになります。

    派遣外国人材の入れ替わりが激しい場合、どのような条件で採用されたのか複数の外国人材にヒアリングをしてみてください。その結果、自社の労働条件(残業時間など)と採用時の求人条件がかけ離れている場合、派遣会社が不適切な求人をしている可能性があります。

    不自然な内容の求人票

    2023年末、ベトナム南部の公立大学に日本の派遣会社からの次のような求人(採用人数9人)がありました。在留資格は技人国です。

    • 基本給:18万円
    • 手取り給料:25万~30万円
    • 職種:建設

    この手取り給料だと、税金や社会保険料などを天引きする前の支給総額は30~35万円となり、毎月最低でも12万円の残業代がつく計算になります。

    所定労働時間を1日8時間として残業時の割増賃金を計算すると1,340円で、1日7時間とした場合は1,530円です(月60時間を超える場合は割増率50%にアップ)。12万円の残業代を稼ぐには、前者の場合で月約85時間の残業、後者の場合でも月約75時間の残業が必要です。

    つまり、この求人票通りの給与を提供するには、毎月少なくとも75時間の残業が必要ということになります。

    しかし、月45時間を超える残業は(36協定の中に特別条項を設けたうえで)年6回までしかできませんので、この給与を実際に支給することは不可能です。また、そのような法律の制限がない場合でも月75時間の残業を安定的に提供できる企業はほとんどありません。

    送出機関関係者によると、ベトナムでこのような求人票はしばしば見かけるそうです。このような求人に応募して来日すると、求人票の説明と実際の給与との違いに不満を持ち、早期離職することが多くなります。

    派遣会社から大きな工場に派遣されて1カ所で5年間働いた技人国の外国人材によると、「ほとんどの派遣外国人材が工場に着任して数カ月で辞めていった」と語っています。

    在留資格と仕事内容の合致が疑わしい場合も

    技人国の在留資格で建設の仕事をする場合、単純作業ではなく現場監督など専門性の高い仕事しかできません。しかし、この求人票では、「日本語試験のレベルは不問」とされていました。日本語能力を問わないのであれば、現場監督はできません。

    つまり、技人国の在留資格では本来できない単純作業をさせている可能性が高いということになります。その場合は在留資格で認められていない仕事をさせることになり、違法です。

    これ以外に、本来は専門性の高い業務しかできない技人国の外国人材が工場の生産ラインで単純作業に従事させられているケースもたくさんあります。派遣会社が入管法違反(不法就労助長)の疑いがあることを承知で派遣している可能性があります。

    受け入れ事業者が派遣外国人材を使うにあたってコンプライアンスを徹底したいのであれば、行政書士などに相談して、その人材の在留資格と仕事内容が合致するか確認した方が良いでしょう。

    まとめ

    このページのまとめ

    ◎韓国や台湾、欧州などからの求人に対するベトナムでの応募者集めは好調ですが、日本の求人だけが不人気で、「一人負け」の状況です。日本が十分な外国人材を確保していくためには、受け入れ条件を改善していくしかありません。

    ◎30代・40代の外国人材が20代よりもずっと高いパフォーマンスで働いている例がたくさんあります。職種や給与水準によっては求める年齢を再検討すべき場合があります。

    ◎人材募集の実情に反して高い応募倍率を要求すると、“さくら”の応募者を集めるための支出が増え、そのコストは最終的に外国人材の負担になります。

    ◎2号特定技能は外国人材に人気です。2号になるために必要な実務経験ポストを設け、求人票などに記載すると応募が増えます。

    ◎派遣外国人材の採用時の求人条件(残業代など)が実際とかけ離れている場合、派遣会社が不適切な求人をしている可能性があります。また、在留資格と仕事内容の合致も確認してください。

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