
特定技能外国人や技能実習生を海外から雇い入れる際、採用面接で何をどのように聞けばよいのでしょうか? 志望動機や在留希望年数に関する本音の引き出し方のほか、採用面接で役立つ質問例をいくつか紹介します。また、家族の同意や日本に親しい同胞がいるかどうか、職務内容を正しく理解しているかどうかなど、外国人材採用に特有のチェックポイントについてもお伝えします。
1分で読める記事の要点〈時間のない方はこちらだけ!〉
ポイント解説

・志望動機や将来計画を正しく把握する:
- 志望動機や将来計画について質問を重ねて状況を具体的に把握し、本音も引き出します。
- 「弟や妹を大学行かせたい」「貧しい実家におカネを送りたい」「子どもの学資を稼ぎたい」という動機の人材は安定的に働くことが多いです。
- 親の世話や結婚のために退職・帰国するケースは多いです。
・外国人材の一般的な生い立ちを知る:限られた時間内で志望動機や将来計画を把握するには、外国人材の生い立ちや背景について一般的な知識を持っておくことも大切です。
・家族の意向で日本に行くが、本人は乗り気ではない場合:複数の監理団体によると、その場合、本人の日本語力が著しく低いとか仕事のパフォーマンスが低いといった事例が多いとのことです。
・本人の意思で日本に行くが、家族が反対している場合:外国人材が日本で悩んだとき、親が説得するか逆に早期帰国を促すかで、本人の職場定着やパフォーマンスの状況が変わります。
・日本に親しい同胞はいるか?:恋人や親しい友人グループが日本の遠隔地にいる場合、その人たちの近くで暮らすために早期に転職する場合もあります。
・外国人面接でのさまざまな質問項目の例:
- 日本で稼いだおカネを何に使いますか?
- それにはいくらぐらい必要ですか?
- 家族の同意、親の世話、家族をサポートすべき事情
- 前職の内容と収入(訪日の動機、求人内容と経歴の親和性)
- 集団生活の経験がありますか?(寮生活への適合性)
・給与や職務内容に関する理解を徹底する:就労後のトラブル防止のため、給料や仕事内容については求人票や資料、面接で丁寧に説明しましょう。動画を活用している事業者もあります。
・面接通訳の能力には限界がある:送出機関の担当者の通訳能力はプロの通訳と比べると劣ります。通訳ミスをカバーするために監理団体の通訳にチェック役で入ってもらうなどの方法があります。
・面接では分かりやすい日本語で話す:日本語を4カ月以上勉強している場合、日本語力もチェックしてみましょう。その際、分かりやすい日本語で質問してください。
◆このページの内容
- ポイント解説〈時間のない方はこちらだけ!〉
- 志望動機や将来計画を正しく把握する
- 外国人材の一般的な生い立ちを知る
- 家族の納得、本人の意欲
- 日本に親しい同胞はいるか?
- 外国人面接でのさまざまな質問項目
- 給与や職務内容に関する理解を徹底する
- 面接通訳の能力には限界がある
- 面接では分かりやすい日本語で話す
- まとめ
[技人国・特定技能編の内容]
- 欲しい人材像を明確にする
- 過去の経験や取り組みを掘り下げる
- 会社の理念や社風に合う人材を探す
- 過去の結果分析で採用基準を適正化
- 日本人と採用プロセスを別にする
- 「選んでもらう立場」を意識する
- 日本語試験のレベルだけで判断しない
- 日本人にとっては「就社」、外国人にとっては「就職」
志望動機や将来計画を正しく把握する

志望動機や将来プランの本音を引き出すには?
日本で働く外国人材のだれもが「いつまでも日本で働きたい」と思っているわけではありません。むしろ、半数以上が「日本で数年だけ働いたら母国に帰りたい」と考えています。彼らが日本に来る動機は「家を建てたい」「帰国後の事業資金を稼ぎたい」「子どもの学費を稼ぎたい」など一時的な出稼ぎ目的が大半です。
ただ、中にはできるだけ長く日本で働きたいと考えている外国人材や、働いているうちに仕事や待遇、生活が気に入って日本に長く住みたいと考える外国人材もいます。そのような外国人材は職場の貴重な戦力となりますし、後輩外国人の指導やサポートも担当してくれます。
そこで、採用面接では、応募者が日本で何年ぐらい働いてくれそうか、できれば把握したいものです。しかし、「日本でいつまで働きたいですか?」と聞いても、本音を言わない場合もあります。応募者の志望動機や将来計画を正しく知るには、質問を重ねて本人の状況を具体的に把握し、本音も引き出します。
家族のサポート、おカネを何に使うか
日本で働く動機について、例えば「日本でおカネを稼いで家族をサポートしたい」と説明する応募者がたくさんいます。そのときは、サポートが必要な家族の状況を具体的に聞きます。
すると、中には「自分は経済的な理由で大学に行けなかったが、弟や妹には行かせてあげたい」という人も結構います。このような人材は長くまじめに働いてくれる傾向があります。
家族をサポートすべき事情が具体的に分からない場合、ほかの質問に移ります。例えば「働いて稼いだおカネを何に使いますか?それにはいくらぐらい必要ですか?」などです。これについても回答を具体的に掘り下げていくと、本人の将来計画に関する本音が見えてくる場合があります。
子どもの学資
「子どもの学資を稼ぎたい」という親は、日本滞在は数年限定とはいえ、その期間中は安定して勤勉に働いてくれることが多いです。
ある養鶏業者は技能実習生として母親を優先的に雇用しています。子どもに良い教育を受けさせたいという母の思いは強く、過去の実習生たちがまじめに安定的に働いてくれたからです。
親の世話
親の面倒を見る親族が周りにいない場合、親の年齢によっては、早い時期に母国に帰らなければならなくなることもあります。家族をサポートすべき事情を把握する際、そのような状況も確認しましょう。
結婚時期
日本で働く外国人材が結婚や出産で退職・帰国することはよくあります。また、結婚相手を探すために退職・帰国するケースもあります。
ただし、帰国・結婚してから2、3年後にまた来日して特定技能外国人になるケースもあります。その後、2号特定技能外国人になれば、配偶者や子どもを日本に呼ぶことができますので、日本でのキャリアを考える新たな材料になっています。
まとめ
一定割合は数年で退職すると割り切り、その前提で採用計画を立てるしかありませんが、採用面接では、長く働いてくれそうな人材もできるだけ見極めたいものです。
そこで、志望動機や将来計画について具体的に掘り下げることで本音を引き出しましょう。そのうえで、親の世話や結婚による帰国も想定しながら可能な勤続年数を推定し、総合判断で採用を決めてください。
いったん退職・帰国してもまた帰ってきてくれる人材もいますので、それも勘案してください。
「日本の仕事文化や技術を身に付けたい」

特定技能や技能実習の候補者が日本で働く動機を聞かれ、「日本の仕事文化や技術を身に付けたい」と答えることがよくあります。それも本音かも知れませんが、彼らの最大の動機はなべて「日本でおカネを稼ぐこと」です。
そこで、応募者が「日本の文化・技術を学びたい」と説明した場合でも、もっと大きな動機である「なぜおカネを稼ぎたいのか」についても必ず聞いてください。
また、「日本の仕事文化や技術を学びたい」という説明に対しては、「例えばどういう仕事文化を学びたいですか?」などと聞き返します。本人が具体的に答えることができれば、意欲や将来計画を判断する材料になります。
希望の就労期間より短い場合
特に有望な外国人材であれば、就労可能な年数が採用側の希望より短い場合でも、採用を検討する余地があります。うまく育てば、後輩の外国人材の指導を担当してもらえるほか、親せきや友人で信頼できる人材を紹介してくれる可能性があるからです。
また、その人材が退職・帰国して別の仕事に就いた場合も、自社がその国と取引する際に協力者になってもらえる可能性があります。受け入れ事業者によっては、現地法人を設立して、その人材に責任ある役職についてもらうケースもあります。
外国人材の一般的な生い立ちを知る

採用面接の限られた時間内で応募者の志望動機や将来計画を把握するには、外国人材の生い立ちや背景について一般的な知識を持っておくことも大切です。それには、日本で働いた先輩外国人たちの体験談が参考になります。
毎日新聞社が運営する広報啓発サイト「KOKORO」では、日本に来た技能実習生や特定技能外国人、留学生の体験談を豊富に紹介しています。
家族の納得、本人の意欲

技能実習や特定技能の外国人材を獲得する際には、本人のやる気や家族の同意についてしっかり確認する必要があります。
家族の意向で日本に行くが、本人は乗り気ではない場合
家族の意向で日本行きを決めたものの、本人にはあまり意欲がない場合があります。例えば、親がブローカーや親戚から「よその子どもが日本で働き、お金を稼いだ」という情報を聞き、本人にその気がないのに、自分の子どもにも日本に行かせたいというケースです。
また、子どもがまじめに働かないため、「日本に行かせて修業させたい、しつけてもらいたい、勤勉さを身に付けてもらいたい」と願って行かせる親もいます。
複数の監理団体によると、このような外国人材は来日後、初歩的な日本語コミュニケーションもできないためトラブルになるケースが多いほか、仕事のパフォーマンスも低い傾向があるそうです。
本人の意思で日本に行くが、家族が反対している場合
逆に、本人の強い希望で日本に行くことにしたが、親や家族が反対しているというースもあります。これも注意が必要です。
多くの外国人材が日本で働き始めるとコミュニケーションに起因するストレスや仕事文化のギャップなどに直面します。そのとき周囲の助言・励ましで乗り越えることが多いのですが、家族が日本行きに反対していた場合は事情が異なります。
多くの外国人材は日本在留中、SNS電話などで親と頻繁に連絡を取り、さまざまな相談もします。外国人材が日本で悩んだとき、親が説得したり励ましたりするのか、逆に「仕事を辞めて早く帰国しなさい」と促すかで、本人の職場定着やパフォーマンスの状況は変わってきます。
このため、子どもが日本で働くことに関して親に丁寧に説明したり、採用面接を受けさせる前に親子面談で家族の意思を確認したりする海外の人材会社(送出機関等)もあります。
受け入れ事業者は登録支援機関や監理団体を通じて送出機関等に依頼し、家族の意向を十分に確認してもらいましょう。また、採用面接でも家族の同意について確認するようにしてください。
日本に親しい同胞はいるか?

近親者で日本に住んでいる人がいるか?
特定技能外国人や技能実習生を雇う場合、日本で働いている(あるいは近々日本で働く予定のある)親族や恋人、仲の良い友だちがいるかどうかを確認することも大事です。
例えば、恋人同士が日本の中の離れた場所で働いている場合、長期休暇時に会うとしても、費用や時間がかかります。そのことに不便を感じ、いつか近くに住みたいと考えます。
その場合、例えば技能実習で3年間働いた後、受け入れ事業者としては特定技能に移行して自社に残ってほしいと思っても、本人は恋人と近くで暮らすために他地域に転出していくことがあります。また、最初から特定技能や育成就労で働く場合は、もっと早く転職できます。
そのほか、親しい友だちが固まって他地域に住んでおり、自分だけが離れた地域で仕事をする場合、早く仲間たちが住む地域に引っ越して働きたいと考えることもあります。
ある面接での事例
筆者が立ち会ったある面接でこういうことがありました。応募者は30代半ばの男性で、妻は20代半ば。結婚してまだ3年目だというので、面接担当者が「奥さんと長期間離れて日本で働くことは大丈夫ですか?」と聞くと、「妻は同じ県内の別の会社ですでに技能実習をしている」と答えました。
このことは面接で初めて分かったので、面接担当者は急いで妻の勤務地を調べ、2人が休日に無理なく会える距離であることを確認したうえで、男性を採用しました。
外国人面接でのさまざまな質問項目

外国人材の採用面接で役立つ質問の例をいくつか紹介します。
〈外国人材の面接での質問例〉
- 日本で○年間働いていくら貯金したいですか?
- 日本で稼いだおカネを何に使いますか?
- それにはいくらぐらい必要ですか?
- 日本に恋人や親せき、親しい友だちはいますか?
- 家族をサポートすべき事情、家族の同意、親の世話
- 前職の内容と収入(訪日の動機、求人内容と職歴の親和性)
- 集団生活の経験がありますか?(寮生活への適合性)
- 掃除・洗濯・料理はできますか?(同上)
- 過去に職場でリーダーや班長を経験したことがありますか?
- 履歴書の内容に間違いはないですか?
- (車での移動がある場合)車酔いはしませんか?
- (喫煙者の場合)日本ではタバコ代が高いですが、大丈夫ですか?
- 虫歯はありませんか?(日本での治療に実習生保険はきかず、自己負担3割)
給与や職務内容に関する理解を徹底する

「給料や仕事内容が事前に聞いていた話と違う」としてトラブルになるケースがしばしばあります。残業代の平均額が事前に聞いていた額とかけ離れているとか、「寿司を作る仕事と聞いていたのに、水産加工食品の工場勤務だった」というようなケースです。
こうした労働条件の不一致の背景には次のようなものがあります。
- 応募者を集めるブローカーが手数料欲しさに候補者に職務内容や残業代についてウソの説明をして応募させることがあります。
- 求人資料の内容が不十分な場合があります。
- 面接時の通訳の精度が悪く、採用側の説明が本人に正しく理解されない場合があります。
技能実習制度では原則として転籍できないので、そのような場合でもがまんして働く人も多かった(そのために問題になった)のですが、特定技能や育成就労の場合、早期離職の大きな原因になります。
給料や職務内容については、求人票・求人資料や面接で丁寧に説明するとともに、確認書面を作って署名をしてもらうという手順も有効です。職務内容については、動画で説明する企業も増えています。
面接通訳の能力には限界がある

外国人材が来日前に聞いていた労働条件と実際の労働条件が違うと感じてトラブルになるケースが多いですが、背景として、面接時の通訳に問題がある場合もあります。
送出機関の担当者の通訳能力はプロの通訳と比べると劣ります。その通訳者に少しでも正しく通訳をしてもらうには、面接担当者が「やさしい日本語」を心がけ、あやしい受け答えがあれば再確認の質問をしなければなりませんが、通常はそこまでできません。
中には、送出機関等がマッチング率を高めるために、面接時に労働条件に関して意図的に不正確な通訳を行うこともあります。
このようなミスコミュニケーションを防ぐには、通訳チェッカーとして監理団体の通訳に面接に立ち会ってもらう▽仕事内容については、動画を見せて説明する――といった方法があります。
面接では分かりやすい日本語で話す

外国で日本語を一から勉強してから来日する特定技能外国人や技能実習生の場合、日本に来るまでに平均5、6カ月間、長くても10カ月間ぐらいしか日本語を勉強しませんので、面接時に日本人が話す日本語を聞き取ることは困難です。
このため、採用面接では通訳を使うことが多いですが、日本語を4カ月以上面接した候補者を面接する場合は、せっかくなので日本語会話力もチェックしましょう。それによって、その人が課題に取り組む力や基礎能力、日本語に関する今後のポテンシャルも評価できるからです。
その際、応募者が質問を聞き取りやすいように、分かりやすい日本語を話しましょう。
① 複文(一つの文章の中に主語・述語が複数ある)をなるべく使わず、短い文章を重ねて話す。
〈例〉「うちの会社にはベトナム人以外にインドネシア人とネパール人もいますが、ほかの国の人たちとも仲良くできますか?」→「うちの会社にはベトナム人とインドネシア人とネパール人がいます。あなたはほかの国の人とも仲良くできますか?」
② 主語をはぶかない。
〈例〉「食べ物は何が好きですか?」→「あなたはどんな食べ物が好きですか?」
③ 大きな声でゆっくり明りょうに話す。
④ 反応を見ながら話す:相手が理解していないようであれば、もっとはっきり話したり、言い方を変えたりします。
文化庁などが推進している「やさしい」日本語については、下記の記事を参考にしてください。
まとめ

このページのまとめ
◎志望動機や将来計画に関して具体的に掘り下げて聞くことで本音を引き出しましょう。
◎親の世話や結婚のために退職・帰国するケースは多いです。
◎応募者の背景をよく理解するために、外国人材の一般的な生い立ちを知ることも大事です。
◎「家族の意向で日本に行くが、本人には意欲がない」「家族が反対」はいずれも問題あり。
◎恋人や親しい友人グループが日本の遠隔地にいる場合、その人たちの近くで暮らすために早期に転職する場合もあります。
◎給料や仕事内容について求人票や資料、面接で丁寧に説明しましょう。
◎面接通訳のミスをカバーするため、監理団体の通訳にチェック役で入ってもらうなどの方法があります。
◎応募者が日本語を4カ月以上勉強している場合、日本語力もチェックしてみましょう。その際、分かりやすい日本語で質問してください。