
生産年齢人口の減少などによる労働力不足を補うため在留外国人が年々増え、同時に地域の活力維持にも貢献しています。しかし、一部では「外国人が増えると治安が悪化する」と心配する声もあります。外国人増加が日本の治安に悪影響を与えているというのは本当でしょうか? 近年の人口動態や犯罪に関する統計をもとにこの問題を冷静に分析してみましょう。
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ポイント解説

・実際は「外国人急増も日本の治安は大幅改善」:在留外国人数の推移と刑法犯認知件数の推移を同時に見ると、「外国人の増減と犯罪の増減には相関関係がない」ことが分かります。統計はむしろ、過去20年あまり「日本の在留外国人は大幅に増えたが、かつて高水準だった犯罪発生件数は逆に大きく減少し、今も低水準を保っている」ということを示しています。同期間、外国人による犯罪も大きく減っています。
・外国人の犯罪率:専門家によると、年齢構成を補正して試算した場合の在留外国人の犯罪率は1,000人あたり1.93人。これは日本全体の30代の犯罪率(同1.94人)とほぼ同じで、都道府県別で犯罪率が最も高い兵庫県(同2.04人)や沖縄県(同2.03人)より低い値です。
・外国人犯罪には凶悪犯が多い?:刑法犯検挙件数を凶悪犯(殺人、強盗、放火、強制性交など)、粗暴犯(暴行、傷害、脅迫など)、窃盗犯、知能犯(詐欺、横領など)、その他に分類した場合、その分布は日本全体と外国人との間で大きな違いはありません。つまり、「外国人犯罪には凶悪犯が多い」という事実はありません。
・外国人犯罪に関する認識と事実とのギャップはなぜ?:外国人犯罪は世間から注目されやすいため、マスコミが大きく報道し、SNSでも多くの人が拡散する傾向があります。このため、実際以上に事件数が多い印象が広まっている可能性があります。また、最近は意図的にフェイクニュースや根拠のない情報を流す人たちもいます。
◆このページの内容
- ポイント解説〈時間のない方はこちらだけ!〉
- 増え続ける在留外国人
- 実際は「外国人急増も日本の治安は大幅改善」
- 在留外国人の犯罪率
- 外国人犯罪には凶悪犯が多い?
- 外国人犯罪に関する認識と事実とのギャップはなぜ?
- まとめ
増え続ける在留外国人
◆日本の在留外国人数の推移(在留外国人統計等より作成)
日本の生産年齢人口の減少に伴って外国人労働者が増え続けています。日本で働く外国人は2008年に48万6398人だったのが2016年に100万人を突破し、2024年には230万2587人になりました。
また、労働者以外の外国人も含めると、2024年の在留外国人は376万8977人で、2000年の168万6444人の倍以上になりました。
このような外国人の増加に伴い、巷間で「外国人が増えたので治安が悪化した」という言説が流れることがあります。しかし、在留外国人が大幅に増えたことによって日本の治安が悪化したというのは本当でしょうか? 統計を冷静に分析すると、そのような事実はないことが分かります。
実際は「外国人急増も日本の治安は大幅改善」

近年、日本の治安は大幅に改善
法務省の「犯罪白書」や「警察庁統計」によると、交通事故関係を除く刑法犯(殺人・強盗・傷害・窃盗など)の認知件数は1995年から戦後最多を毎年更新し、2002年にピークの約285万件に達しました。しかし、2015年以降は減少に転じ、2018年(約82万件)に戦後最少を更新して2021年(約57万件)まで最少を更新し続けました。新型コロナの感染拡大に伴う社会規制が解除された2022年以降は増加傾向ですが、2024年も約74万件で、過去と比べて低水準を保っています。
◆刑法犯認知件数と在留外国人数の推移
(警察庁統計、犯罪白書、在留外国人統計等から作成)
そのような傾向の中、上のように2000年以降の在留外国人数の推移と刑法犯の認知件数の推移をグラフで重ね合わせると、「在留外国人の増減と犯罪の増減には相関関係がない」という事実が浮かび上がりました。
むしろ、2025年まで20年あまりの全体的な傾向として「日本の在留外国人は大幅に増えたが、かつて高水準だった日本の犯罪発生件数は逆に大きく減少し、低水準を保っている」という事実が読み取れます。警察庁も「2022年をピークに刑法犯認知件数は減少し、統計上は着実に治安が改善してきた」と分析しています。
「外国人の増加で治安が悪化した」という言説・風評には明確な根拠がないと言えます。
ちなみに、犯罪発生数が2003年以降大きく減少した理由としては、若年人口の減少や防犯意識の向上、生活の安定、警察の取り締まり強化などが挙げられ、特に窃盗が大幅に減りました。
外国人犯罪も大幅に減少
法務省「犯罪白書」によると、外国人による刑法犯の検挙件数は2005年(43,622件)をピークに翌年からは減少傾向を続けていました。2023年(15,541件)は前年より2,594件増えましたが、ピーク時の約36%にとどまっています。
外国人の刑法犯検挙人数についても、1999年から増加し2005年に14,786人を記録した後、翌年から減少傾向が続きました。2023年は前年より11.8%増えて9,726人となりましたが、それでもピーク時の約66%です。
なお、これらの数値には、犯罪を目的として一時的に来日する犯罪組織による犯行も含まれており、一般の在留外国人による犯罪はもっと少ないということになります。
在留外国人の犯罪率

外国人の犯罪率
2023年の刑法犯検挙人数(183,269人)の中で外国人が占める率は5.3%。この年、日本の人口は1億2435万2000人で、このうち外国人(3,410,992人)は2.7%なので、外国人は人口の割に検挙者数に占める率が多いという計算になります。
ただし、在留外国人の年齢構成が日本全体と比べて若年層に偏っていることを勘案すると、単純比較はできません。この点、国立社会保障・人口問題研究所の是川夕部長は公益財団法人「日立財団」のウェブサイトに投稿した記事で、年齢構成による影響を補正する試算を行い、日本全体と同じ年齢構成だった場合の在留外国人の犯罪率は日本全体の犯罪率の約1.3倍と推定しました。
この推定犯罪率は1,000人あたり1.93人です。これは日本全体の30代の犯罪率(1,000人あたり1.94人)とほぼ同じで、都道府県別で犯罪率が最も高い兵庫県(同2.04人)や沖縄県(同2.03人)よりは低い値となります。
外国人の犯罪率が下がったのはなぜか
外国人が大幅に増えたのに外国人の犯罪検挙者数は大きく減っています。
これは、犯罪目的で来日する犯罪組織のメンバーへの取り締まりが進んだことや、家族との同居も含めて日本に長く滞在する外国人が増えたことなどが要因と考えられます。
日本の賃金は先進諸国の中で相対的に低くなり、おカネを主目的とする出稼ぎ先としての魅力は減りました。しかし、都市機能は充実し空気・水・交通などの生活環境も良いこと、教育水準が高いこと、医療福祉が進んでいること、治安が良いことなど、生活の場としての魅力が大きく、日本で長く住むことを望む外国人も増えています。
日本で永住権を取得したり、それ以外の滞在資格でも安定的に在留期限を更新したりするためには、素行の良し悪しも判断されるので、犯罪に関与して在留資格審査で不利益を受けたくないとの思いから日本人以上に慎重に行動する在留外国人も多いのです。
外国人犯罪には凶悪犯が多い?

「外国人犯罪には凶悪犯が多い」には根拠なし
「外国人が増えたので凶悪犯罪が増えた」「外国人犯罪は凶悪」という言説もあります。しかし、それは事実に基づいているのでしょうか?
刑法犯検挙件数を凶悪犯(殺人、強盗、放火、強制性交など)、粗暴犯(暴行、傷害、脅迫など)、窃盗犯、知能犯(詐欺、横領、汚職など)、その他に分類した場合、その分布は日本全体と外国人との間で大きな違いはありません。
これを統計で見ていきましょう。
◆刑法犯検挙件数の内訳(2023年)
※警察庁「令和5年の刑法犯に関する統計資料」に基づいて作成
日本全体の刑法犯検挙件数の中で最も多いのは窃盗犯で66.1%(305,922件)。粗暴犯は9.8%(45,095件)、凶悪犯は1.1%(5,287件)でした。
一方、在留外国人の中で永住者やその家族、在日米軍関係者などを除く「来日外国人」の刑法犯検挙件数の内訳も窃盗犯61.3%(6,149件)、粗暴犯13.7%(1,371人)、凶悪犯2.2%(222件)など。これは日本全体の刑法犯の内訳とよく似ており、「外国人の犯罪には凶悪犯が多い」という傾向は見られませんでした。
また、検挙された凶悪犯5,287件のうち来日外国人事件は222件で、凶悪犯罪の全体数に大きな影響を与える数字にもなっていません。
以上のように、さまざまな統計を調べた結果、「在留外国人の増加が日本の治安を悪化させている」という言説を裏付けるデータは見当たりませんでした。むしろ、日本の犯罪は外国人の増加に反比例して減少し、治安は良くなっていると言えます。
外国人犯罪に関する認識と事実とのギャップはなぜ?

内閣府が2021年末から22年始めにかけて行なった治安に関する世論調査では、「日本は安全・安心な国か」という問いに過去最高の85.1%が「そう思う」と答えました。ところが、「ここ10年で日本の治安は良くなったか」と聞いたところ、「よくなったと思う」が44.0%、「悪くなったと思う」が54.5%でした。
実際の犯罪件数は減っているのに体感治安が悪化している原因は何でしょうか?この世論調査では、自分や身近な人が被害に遭う可能性の高い犯罪として「特殊詐欺や悪質商法などの犯罪」や「不正アクセスやフィッシング詐欺などのサイバー犯罪」を挙げた人がいずれも約53%いました。
オレオレ詐欺の電話を受けたことのあるお年寄りや詐欺関連とおぼしき電話・SNS・メールを受け取ったことのある人が非常に増えたことから、犯罪を身近に感じる人が多くなったと考えられます。
さらに、外国人犯罪については、世間の耳目を集めやすいため、大手も含めてマスコミが大きく報道する傾向があります。また、反響が大きいので、外国人犯罪に関するニュースやコメントを拡散する人も多くいます。このため、実際以上に事件数が多い印象が広まっている可能性があります。
筆者も大手新聞社で長く記者や編集者(デスク)を経験しましたが、殺人事件であっても、例えば住所不定無職の男性がけんかで死んだ場合と、子どもや若い女性が何者かに殺された場合とでは、新聞の扱いは大きく変わります。命の重さは同じですが、事件内容によってニュース価値が変わり、報道のされ方、拡散のされ方も変わるという現状があります。
また、最近は意図的にフェイクニュースや根拠に基づかない情報を流す人たちもいますし、不特定多数によるネットを使った印象操作も可能になっています。
情報の受け手としては、「SNSでは、自分が『いいね』をしたものに近い言説ばかりが流れてくるようになり、バランスよく情報を取ることは難しい」ということに留意してください。
加えて、「外国人増加で治安が悪化」など根拠のない言説もたくさん拡散されていますが、「だれが何を根拠に主張しているのか」を常に意識して情報に向き合うことが大切です。
まとめ

このページのまとめ
◎「外国人が増えると治安が悪くなる」という言説があります。しかし、統計を見ると、「外国人の増減と犯罪の増減には相関関係がない」ことが分かります。実際には、過去20年あまりで「日本の在留外国人は大幅に増えたが、かつて高水準だった犯罪発生件数は逆に大きく減少し、低水準を保っている」ことが示されています。
◎専門家によると、年齢構成を補正して試算した場合の在留外国人の犯罪率は1,000人あたり1.93人。これは日本全体の30代の犯罪率(同1.94人)とほぼ同じで、都道府県別で犯罪率が最も高い兵庫県(同2.04人)や沖縄県(同2.03人)より低くなっています。
◎刑法犯検挙件数を凶悪犯(殺人、強盗、放火、強制性交など)、粗暴犯(暴行、傷害、脅迫など)、窃盗犯、知能犯(詐欺、横領など)、その他に分類した場合、その分布は日本全体と外国人との間で大きな違いはありません。「外国人犯罪には凶悪犯が多い」という事実はありません。
◎外国人犯罪は注目されやすいため、マスコミが大きく報道し、SNSでも盛んに拡散される傾向があります。このため、実際以上に事件数が多い印象が広まっている可能性があります。また、意図的にフェイクニュースや根拠のない情報を流す人たちもいます。「だれが何を根拠に主張しているのか」を意識して情報に接することが大切です。