
「特定技能は技能実習より安い」という説明をよく聞きます。確かに、技能実習では入国後講習に伴う費用が発生しますし、監理団体に支払う毎月の監理費も特定技能の支援委託費より割高です。ただし、特定技能では、技能実習では不要な「紹介手数料」を人材紹介会社などに支払う必要がありますし、送出機関などに講習委託費を支払うことも一般的です。この記事では、特定技能と技能実習の初期費用について見落としがちなポイントを紹介します。
◆このページの内容
特定技能では多くの場合「紹介手数料」が計上される

特定技能外国人を国内の人材紹介会社や登録支援機関から紹介してもらう場合、技能実習では不要な「紹介手数料(=紹介謝礼)」を求められることが多いです。特定技能の「紹介手数料」とはどういうものでしょうか?
特定技能「国内人材」の紹介手数料
特定技能外国人として「国内人材」(もともと日本に住んでいる外国人材)の紹介を受ける場合は、人材紹介会社や登録支援機関から紹介手数料(謝礼)を求められることが一般的です。
これらの紹介業者の多くはさまざまな方法で求人広告を拡散するなどして特定技能外国人の転職希望者を集め、その人材を受け入れ事業者に紹介することによって20万~70万円の紹介手数料を受け取ります。中にはもっと多額の紹介手数料を取るケースもあります。
ここで注意すべきは、手数料の高さと人材の質は決して比例しない(無関係)ということです。「大手の人材紹介会社だから間違いない」「高い手数料には高いなりの理由がある」という先入観だけで紹介業者を選ぶと、費用が無駄にかさむことになります。
一方、教育コストの場合は高いなりの理由があるケースも多く、手数料の多寡とは意味が違います。
特定技能「海外人材」の場合、紹介手数料は対応が分かれる
転職する特定技能外国人の「国内人材」の数が限られているため、登録支援機関などを経由して海外の人材会社(送出機関など)から「海外人材」(海外で集めた人材)の紹介を受けるケースが増えました。その場合、紹介手数料について登録支援機関によって対応が分かれます。
- 日本の人材紹介会社を通じて特定技能外国人を採用する場合、海外人材でも10万~40万円の紹介手数料が必要です。
- 登録支援機関を通じて海外から特定技能外国人を採用する場合は、紹介手数料を取らない支援機関もあります。
手数料はもっと高い場合もあります。
一部の登録支援機関が無料で対応しているのは、入国後の外国人材を支援することに対して支援委託費を毎月受け取るため、その収入だけでよしと判断するからです。つまり、「手数料も支援委託費もほしい」という機関と「支援委託費だけでよい」という機関に分かれています。
特定技能外国人を採用する場合、相見積もりを取って慎重に検討してください。
ところで、紹介謝礼の金額には大きな幅があります。2025年、従業員20人ぐらいの工場経営者に取材した際、「今年(2025年)、海外から特定技能外国人を2人採用したが、1人につき90万円以上の費用を取られた」と聞いて驚いたことがあります。90万円の中には入国前教育の費用(講習委託費)も含まれているようですが、渡航費は含まれず、相場を超える高い紹介謝礼を払った可能性が高いです。
特定技能で早期離職した場合の新たな初期コスト

技能実習では適正に雇用すればほとんどの場合、3年以上働いてくれますが、特定技能は転職自由なので、外国人材が早期離職するケースも日常的に起こります。
採用から半年以内の離職であれば、人材紹介会社等から補償を受けられることも多いですが、半年以上経ってから離職した場合は通常、補償がなく、新たに発生する新規採用コスト(紹介手数料など)の分が技能実習と比べて高くつくという計算になります。
また、早期に離職されると、新規に募集する時間や新しい人材を一から教育する労力など、紹介手数料以外の無形の損失もあります。
特定技能の講習委託費とは?

特定技能「海外人材」を雇う場合の講習委託費
日本の人材紹介会社や登録支援機関から特定技能外国人を紹介してもらう場合、それはもともと日本に住んでいる「国内人材」を紹介されるか海外の送出機関が現地で集めた「海外人材」を紹介されるかのいずれかです。
海外人材には、技能実習を経験したことのある人材も多いですが、技能実習生と同じように送出機関で日本語を一から学んで日本に来る人材も多数います。その場合、送出機関は外国人材を特定技能1号に必要な日本語試験と技能試験に合格させてから日本に送り出しますが、そのための入国前教育費の一部を「講習委託費」として受け入れ事業者に請求します。中には、「講習委託費」を「紹介手数料」という名目で請求する場合もあります。
これらの額は20万~35万円ぐらいが相場で、送出国によっても平均相場が違いますし、求める日本語レベル(N3かN4か等)や送出機関の教育力によっても変わります。
教育力の低い送出機関から受け入れる場合、日本語試験に合格しただけで会話がほとんどできない状態で入国する人も多いので、注意が必要です。
「講習委託費ゼロ」のケースについて
海外人材でも「講習委託費ゼロ」の場合があります。
① その場合、送出機関などが外国人材から高い費用(教育費と手数料)を徴収することも多いです。
② あるいは、「講習委託費」の代わりに「紹介手数料」という名目で受け入れ事業者に費用負担を求めるケースもあります。
送出機関などが「講習委託費」も「紹介手数料」も請求しないケースは一見「お得」に見えますが、実は要注意です。その場合、外国人材から多額の費用を徴収するしかないため、その求人には良い人材が集まりにくいという重大なデメリットがあります。さらに、外国人材が多額の借金を背負って来日し、給与に起因する不満やトラブル、ひいては早期離職につながるリスクもあります。
技能実習の入国後講習費用とは?

技能実習では「紹介謝礼」は不要です。また、入国前教育の受け入れ事業者の費用分担は15,000円です。
しかし、特定技能にはない費用負担もあります。実習生が日本に入国後してから1カ月間、監理団体等が研修施設で入国後講習を行ないますので、それに関連する費用が発生します。
入国後講習の内容は日本語教育や日本での仕事文化、生活のルール、電車・バスの乗り方、自転車のルール等、日本で仕事や生活をするために必要な教育で、受講が義務付けられています。
受け入れ事業者はそのための教育費や宿泊費を講習実施者(監理団体など)に支払う必要があり、その額は8万~10万円前後です。講習内容にも費用にもばらつきがあります。
また、実習生に対して入国後講習期間中の基本給の支給は不要で、講習が終わって職場に配属された後の最初の給料日に初めて給料を支給します。それまでの生活費(主に食費)として実習生に「講習手当」を支払います。その額は6~8万円です。
特定技能と技能実習のその他の初期費用

特定技能の大きな初期費用として「紹介手数料」と「講習委託費」について、技能実習の大きな初期費用として「入国後講習に関連する費用」について説明しました。これら以外に以下のような初期費用があります。
各種書類作成費用
・技能実習計画の認定申請:技能実習の場合、候補者1人1人について技能実習計画を立案して外国人技能実習機構に提出し、計画を認定してもらう必要があります。その書類作成に数万円、審査に3,900円かかります。これは特定技能にはない費用です。
・入管関連:特定技能・海外人材と技能実習では、入管に在留資格認定証明書(COE)を発行してもらうための申請書類作成に数万~十数万円かかります。技能実習の場合、技能実習計画に関する書類作成費と合わせて計上されることが多いです。特定技能・国内人材の場合は在留資格変更許可申請の費用だけです。これは自分でやれば申請費だけなので数千円、書類作成を業者に依頼する場合は数万~十数万円かかります。
移動費(渡航費、引越費用)
・片道の来日渡航費:これについては、海外人材の場合、技能実習も特定技能も基本的に共通です。特定技能では渡航費本人負担の場合もありますが、その場合、求人への応募に影響が出ます。
・引越費用:特定技能・国内人材の場合は、引越費用を事業者が負担することが多いです。国内の引越代も高騰しており、運送距離や荷物量によっては海外人材の渡航費を上回る場合もあります。
現地面接費用
採用面接をオンラインではなく現地に赴いて行なう場合、旅費がかかります。日本の監理団体や登録支援機関に同行してもらう場合は、同行費用もかかります(採用人数が多い場合は免除も)。
これは特定技能・海外人材でも技能実習でも同じです。
採用ルートは良い人材を確保するための生命線です。オンライン面接が増えていますが、ときどき現地に赴いて海外人材派遣会社(送出機関等)の状況を自身で確かめることをお勧めします。また、対面での採用面接にはオンライン面接にはないさまざまなメリットもあります。
健康診断費用、結核検査費用
採用面接後、入国までに健康診断などを行ないます。検査の精度・内容によって数千円~2万円前後の費用がかかります。
これについては、技能実習生も特定技能・海外人材も同じですし、特定技能・国内人材の場合も雇用前に健康診断を行なうことが多いので、特定技能と技能実習で大きな違いはありません。また、費用の一部または全部を海外側に負担してもらうケースもあります。
技能実習生保険、特定技能外国人保険
技能実習生は受け入れ事業者の負担で民間の「技能実習生保険」に加入させます。病気・けがへの対応が主眼で、健康保険でカバーできない残り3割の医療費をこの保険がカバーします(歯の治療や妊娠はカバーできません)。
自転車で事故を起こした場合などに被害者に支払う個人賠償も含まれています。実習生が大きな病気になったりトラブルを起したりした場合、本人に支払い能力が十分ではないため、結局は受け入れ事業者が何らかの面倒をみなければなりません。このため、ほとんどのケースでこの保険に加入しています。費用は3年間で2万円台が相場です。
特定技能にも同様の「特定技能外国人保険」があります。大きな病気やトラブル時の対応能力がない点は特定技能外国人も同じなので、特に特定技能・海外人材の場合、事業者負担で加入させるケースが増えています。費用は5年間で4万円台が相場です。
まとめ
このページのまとめ
特定技能と技能実習の初期費用を比較する際の主な着目ポイントをまとめると、下記の表のようになります。
◆特定技能や技能実習の主な初期費用
特定技能1号(国内人材) |
【紹介費】紹介手数料:20万~70万円 |
【書類作成等】在留資格変更許可申請:数万~十数万円 |
【移動費】引越費用:実費 |
特定技能1号(海外人材、日本語を一から教育) |
【紹介費】紹介手数料:10万~40万円 ※一部の登録支援機関は無料 |
【来日前の教育費】講習委託費:20万~35万円 ※介護では増額 |
【書類作成等】在留資格認定申請:数万~十数万円 |
【移動費】渡航費(片道航空券):実費 |
特定技能1号(海外人材、日本滞在経験あり) |
【紹介費】紹介手数料:10万~40万円 ※一部の登録支援機関は無料 |
【来日前の教育費】無料の場合も多い |
【入管関係】在留資格認定申請:数万~十数万円 |
【移動費】渡航費(片道航空券):実費 |
技能実習 |
【紹介費】紹介手数料:無料 |
【来日前の教育費】15,000円 ※介護の場合は増額 |
【入管関係】技能実習計画や在留資格の認定申請:計数万~十数万円 |
【移動費】渡航費(片道航空券):実費 |
【入国後講習に関する費用】入国後約1カ月間の教育・宿泊費と実習生の生活費(講習手当):計十数万円 |
※金額はおおよその相場で、人材紹介会社や登録支援機関によって大きく異なります。また、複数の費目を統合して計上する場合もあります。
特定技能外国人(海外人材)を募集する場合の初期費用は、日本の人材紹介会社や登録支援機関に支払う「紹介手数料」と外国の送出機関に支払う「講習委託費」、そしてランニングコストの「送出管理費」の有無を合わせて総合的に判断してください。
例えば、「講習委託費が無料(または低額)」の代わりに「紹介手数料」や「送出管理費」で埋め合わせているケースもあれば、外国人材から高い教育費・手数料を徴収している場合もあります。
良い人材を安定的・継続的に採用するためには、外国人材の本人負担が過大になっていないかどうかや、紹介してもらう人材の質(意欲や人柄、日本語力)はどうか、などに着目して依頼先を選ぶことが大切です。「大手の紹介だから良い人材」「紹介手数料が高ければ人材の質も高い」ということは決してありませんので、注意してください。