
教育力の高いインドネシアのある送出機関では、生徒(人材)が入校して日本語の授業を始める前に10日間前後、オリエンテーション(キャリア教育)だけを行ないます。その中で社長や教師陣が分担してある事柄を生徒たちにたくさん伝えます。すると、最初は少なかった「日本が好き」とか「日本に行くのが楽しみ」という生徒が急増し、一人一人がモチベーションを高めて日本語学習に取り組むようになるといいます。一体、そのオリエンテーションで生徒たちに何を伝え、何を考えてもらうのでしょうか?
◆このページの内容
- 日本語教育力の高いある送出機関の話
- 日本語より前に日本のことを徹底的に教える
- 将来設計(キャリアプラン)を立てさせる
- 受け入れ事業者がキャリア教育を提供することも可能
- 単なる労働力ではなく人として―― 外国人雇用を通じて企業も変わる
- まとめ
日本語教育力の高いある送出機関の話

私は国内外での取材で集めた情報や、場合によっては多数の送出機関にアンケートやオンラインインタビューを行なって得た情報などをもとに、対象を絞ったうえで、インドネシアやベトナムなどの送出機関数十社を訪問調査(取材)してきました。
訪問調査でチェックする項目はいくつかありますが、最も重視しているのは、日本語を数カ月勉強した生徒(人材)との対話です。独自のチェック方法と基準で生徒たちの日本語力をチェックするのですが、送出機関ごとに生徒の実力が大きく分かれています。
その中で小規模ながら高い教育力を持つインドネシアのある送出機関があります。飛び抜けて日本語力の高い教師が集まっているわけではありませんが、なぜか生徒たちは他の送出機関に比べて日本語をよく聞き取り、よく話します。
確かに、授業内容やプログラムについては、教師陣がよく話し合って工夫をしていますが、それだけならほかの送出機関でもよく見かけることです。この送出機関の生徒の会話力から考えると、それだけでは納得できないところがあり、ほかに秘訣はないのか(親しくなってから)この送出機関の社長に聞いてみました。すると、意外な答えが返ってきました。
日本語より前に日本のことを徹底的に教える

「実は、生徒が送出機関に入校してきたら、最初の10日間前後は日本語をいっさい教えないんです」
元技能実習生でまだ30代のインドネシアの送出機関社長は私の質問にそう答えました。
聞くと、送出機関に入ってきたばかりの生徒に「日本が好きかどうか」「日本に行くのが楽しみかどうか」を聞くと、「好き」とか「楽しみ」と答える生徒はたった2、3割しかいないとのこと。「その状態で日本語の学習を始めても気持ちが入らず、勉強はただ苦しいだけなんです」
そこで、社長をはじめ日本に住んだことのある教師たちが、自分たちが日本で経験したことや学んだこと、苦しかったことやうれしかったこと、日本での仕事や生活の内容、街の景色、日本人や日本文化のことなどを、毎日話して聞かせるそうです。
そして、日本で何を経験し何を学び、3年後にどんな自分になって、その後の人生をどう生きていくのか、どういう仕事をするのか、それについて生徒たちに考えさせます。
このプロセスを経て約10日後にもう一度生徒たちに尋ねると、「日本が好き」「日本に行くのが楽しみ」という人が7、8割に増えているそうです。「その状態に持っていってから、日本語学習を始める方が、学習に取り組む姿勢が変わり、力がつくのです」と社長は話します。
将来設計(キャリアプラン)を立てさせる

社長自身、日本での技能実習の3年間で日常会話が不自由なくできるようになり、帰国後も日系企業で働いたり通訳の仕事をしたりするうちに日本人の実業家と出会い、その人の出資で送出機関を設立しました。もちろん、そのような自分の経験も生徒たちに話して聞かせます。
このキャリア教育(オリエンテーション)の中で大事なことは、社長や先生の話を聞いたうえで、生徒たちに自分の将来設計(キャリアプラン)を立ててもらうことです。
単に「店を持ちたい」といった比較的簡単な目標だけではなく、日本で何を身に付けるのか、日本語はどれぐらいできるようになって、それを将来の仕事にどのように活かすのかなどを、なるべく具体的に考えてもらいます。
それによって、生徒たちがこれから日本語を学習するためのモチベーションが上がっていくのです。
受け入れ事業者がキャリア教育を提供することもできる

さて、生徒にキャリア教育を行っている送出機関はほかにもありますが、ここまで時間をかけて中身の濃いキャリア教育をしている機関はなかなか見つかりません。ここまでのレベルを探すのは難しいにしても、キャリア教育に力を入れている送出機関を見つけてくれるように監理団体や登録支援機関に依頼することはできます(そのような意欲や能力がある団体・機関を選びましょう)。
また、採用面接で内定を出した生徒たちに自社でオンラインでキャリア教育を提供することもできます。自社だけで難しい場合は、監理団体や登録支援機関などにも手伝ってもらいます。
せっかく遠く日本まで来て働いてもらう人材ですから、大いなる夢や希望を持ち、十分な学習をしてから日本に来てもらいたいものです。
彼らにとっては、日本で仕事をして給料をもらうだけなら、実はそれほど日本語力がなくても目的を達成することができます。受け入れ事業者の方でも、「働いてさえくれれば日本語は話せなくてもよい」という経営者もいます。
しかし、最低限の日本語を身に付けて来日する人材はほかの人材よりものごとに意欲的に取り組みます。会社にとっては大きな戦力になりますし、そのような人材が将来も自社に残って特定技能や永住者として働き続けてくれれば、かけがえのない人材になります。
また、それらの人材と将来、仕事上の関係がなくなっても、自社で働いた外国人が大きく羽ばたいて活躍してくれるということは大変喜ばしいことではないでしょうか。
単なる労働力ではなく人として―― 外国人雇用を通じて企業も変わる

受け入れ事業者としては、外国人材を単なる労働力としてとらえるのではなく、自社を選んで遠い日本まで働きに来てくれた大切な人間として考え、その将来を思いやり、大事に育てる姿勢があれば、きっと良い外国人材雇用ができるものと思います。
そして、外国人材を大事に育てる努力・工夫をするなかで、日本人従業員に対する姿勢も自然と改善されていき、気がつけば企業体質が大きく変わり、日本人にとっても一層居心地の良い職場に変化しているという可能性も大いにあります。
まとめ
このページのまとめ
・日本語教育力の高いインドネシアのある送出機関では、日本語教育を始める前に10日間前後のキャリア教育(オリエンテーション)を行ないます。その中で、日本に住んだことのある教師たちが、自分たちが日本で経験したことや学んだこと、日本での仕事の内容や生活の様子、日本人や日本文化のことなどを、毎日話して聞かせます。
・これらの話を聞いたうえで、生徒たちに自分の将来設計(キャリアプラン)を立ててもらいます。日本に行って何を学び何を身に付けてどのような自分になるかを決め、自分の将来像を描くのです。それから日本語教育を始めると、各自が高いモチベーションで学習に取り組むとのことです。
・キャリア教育に力を入れている送出機関を見つけてくれるように監理団体や登録支援機関に依頼することはできます(そのような意欲や能力がある団体・機関を選びましょう)。
・また、採用した生徒たちに自社でオンライン・キャリア教育を提供することもできます。そのときは、監理団体や登録支援機関などに手伝ってもらいます。
・外国人材を単なる労働力としてとらえるのではなく、遠い日本まで働きに来てくれた大切な人間として考え、大事に育てる姿勢が大切です。