定着ノウハウ

〈外国人採用の鉄則〉外国人材を引きつける給料以外のさまざまな工夫

給料が平均相場より少ないと、外国人材の応募で苦戦しますし、就労後も早期離職の大きな動機になります。しかし、どうしても基本給・残業代が平均を下回ってしまう場合、給料以外のさまざまな工夫をこらして外国人材を確保し定着してもらわなければなりません。基本給・残業代の低さを補うにはどのような手立てがあるのでしょうか。具体例を中心に見ていきましょう。

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ポイント解説

寮費を安く抑えて手取り給料を増やす:寮費を安く設定することで外国人材の手もとに残るおカネが増え、低賃金を補う効果があります。

・寮の水道・光熱費と通信費を定額に:寮費を安くすることに加え水道・光熱費・通信費(インターネット代)の自己負担額も低額で固定し、事業者が不足分を負担しているケースもあります。

・基本給・残業代を補う何らかの「手当」:日本語試験合格の等級に応じて基本給を上げたり「資格手当」を支給したりする事例があります。基本給・残業代を補うと同時に、日本語学習意欲を高めます。このほか「寒冷地手当」や「遠隔地手当」などの手当も考えられます。

・移動時間が長い場合の「手当」:建築やビルクリーニングなどの現場が遠く、毎日あまりにも移動時間が長い場合は、「出張手当」など何らかの手当をつける事業者もあります。

・毎月の低賃金を補うボーナス:日本人にボーナスを払っている場合、特定技能外国人にも同じ基準でボーナスを支給しなければなりません。技能実習生にボーナスを支給している会社もたくさんあります。良い外国人材の採用・定着には適正なボーナスの支給が欠かせなくなっていきます。

・食費など生活費を抑えるサポート:低賃金を補う工夫として、農産物を支給したり野菜栽培スペースを提供したりする事例があります。低価格の社員食堂や売れ残り食品の提供も喜ばれます。

・日本語学習サポート:教師を雇うなどして外国人材の日本語学習をサポートすると、自分で費用を払う場合と比べて支出が減るので、低賃金を補う材料の一つになります。

◆このページの内容

寮費を安く抑えて手取り給料を増やす

基本給・残業代が平均相場より低い場合、寮費や水道・光熱費、通信費(インターネット代)の本人負担を安く設定するという手法が広く用いられています。これによって外国人材の手もとに残るおカネが増えるので、低賃金を補う効果があります。求人票にもこのことを記載すると応募増に役立ちますし、就労後の長期定着にもつながります。

技能実習生については、受け入れ事業者の所有物件か借り上げ物件を寮として提供し、本人たちの毎月の寮費負担を平均15,000~20,000円ぐらいにとどめる(残りは事業者負担)ケースが大半です。特定技能外国人にも寮を提供する場合があります。

しかし、残業代や手当も加えた支給額がどうしても平均を下回る事業者や、不人気な場所にある事業者の中には、寮費を平均より低く抑える取り組みが散見されます。これによって外国人材の手もとに残るおカネが増えるので、実際に外国人材の安定的な確保や長期定着に役立っています。

関西のある事業者は、従来2万円だった技能実習生の寮費負担を5,000円に引き下げ、求人への応募者を大幅に増やすことに成功しました。

寮の水道・光熱費と通信費を定額に

寮費を1万円以下に抑える取り組みは結構たくさん見聞きしますが、それに加えて寮で使う水道・光熱費・通信費の自己負担額も低額(固定額)に設定し、事業者が実費との差額を負担しているケースもあります。

九州のある事業者は寮費と水道・光熱費、通信費を合わせて毎月1万円の固定額(2025年に若干の値上げを検討)しか外国人材に負担させず、そのことが人気となって長年安定的に外国人材を確保してきました。

基本給・残業代や手当の合計が平均より少し低くても、このように寮費や水道・光熱費などの本人負担額を低く抑えることによって、外国人材の手もとに残る額が平均相場に近づきます。そうすると、給料に関する外国人材の不満を解消・緩和することができます。

基本給・残業代を補う何らかの「手当」

大企業の多くは外国人材に長時間の残業をさせない代わりに、何らかの手当をつけることによって手取り給料が同業種・同地域の外国人材の平均を下回らないように工夫しています。

中小企業の場合も、例えば外国人材が日本語試験に合格すると、その試験の等級に応じて一時金(報奨金)を支給したり基本給を引き上げたりするほか、毎月の給料に「資格手当」を付ける事例があります。

こうした取り組みは基本給・残業代の低さを補うと同時に、外国人材の日本語学習意欲を高め、人材育成にもつながります。

基本給・残業代の低さを補うため、このほか、不便な地域で仕事・生活をする場合の「寒冷地手当」や「遠隔地手当」といった手当も検討することができます。

移動時間が長い場合の「手当」

建設やビルクリーニングなどの仕事で始業前と終業後の移動があまりに長い場合、「出張手当」を付けるとか、会社か寮に帰る時刻が定刻を過ぎたら残業代を計上するなど、長時間拘束の一部に対して何らかの対価を支払っている事業者もあります。

神奈川県の建設会社で働いていた技能実習生2人は、寮から新宿の建設現場まで往復約4時間の移動(会社が車で送迎)が何週間も続いたのに、手当が一切ありませんでした。彼らはそのことと仕事内容や低賃金への不満も合わさって失踪しました。

しかし、会社によっては、遠方の現場に通う場合に「出張手当」をつけることがあります。

また、私が取材した香川県のビルクリーニング会社は、技能実習生たちが会社や寮に戻る時刻が定刻を過ぎるときは、残業代を付けていました。

外国人材は日本人以上にワークライフバランスを重視しますし、移動に伴う疲労や拘束時間を考慮すると、かなり長い移動時間に対してでも「手当ゼロ」だと、少なくとも外国人材の長期定着は期待できません。

毎月の低賃金を補うボーナス

特定技能外国人へのボーナス

日本人従業員へのボーナス制度がある場合、技人国(技術・人文知識・国際業務)の外国人材にはもちろん、特定技能外国人にも日本人と同等の基準でボーナスを支給しなければなりません。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査(2024年)では、特定技能外国人の平均ボーナス(年間賞与その他特別給与額)は年間99,100円でした。

産業別では、「鉱業、採石業、砂利採取業」で417,500円、「不動産業、物品賃貸業」で216,500円と平均より多く、「製造業」では86,900円でした。また、「宿泊業、飲食サービス業」のボーナスは事業者間で差が大きい(平均値不明)として数値が公表されませんでした。

これまで取材した受け入れ事業者の中には、特定技能外国人に日本人より低い基準でしかボーナスを支給していない例や一切支給していない例もありました。

しかし、毎月の支給額がさほど高くない場合、ボーナスである程度補うことが望ましいと言えます。それでなくても、外国人材にボーナスを支給する事業者は今後増えていくと予想され、良い外国人材の採用・定着のためには、適正なボーナスの支給が欠かせなくなっていきます。

技能実習生へのボーナス

技能実習生に対してはボーナスを支給する義務はありません。しかし、実習生にもボーナスを支給している大企業が多いですし、中小企業でも、毎月の低賃金を補う意味も込めてボーナスを支給する例があります。

上記の厚労省調査では、技能実習生の年間平均ボーナスは50,700円でした。産業別では、「建設業」86,000円、「製造業」45,700円、「宿泊業、飲食サービス業」58,700円などでした。

技能実習のケースも特定技能のケースも、ボーナスを支給していない企業もありますので、支出している事業者間だけで平均額を算出すると、もっと金額が増えます。

食費など生活費を抑えるサポート

賃金を補う工夫として農産物を支給したり、畑を使用させたり、店で余ったものを持ち帰らせたりするケースもあります。

自家栽培の米や野菜の提供

地方の事業者を中心に、給料とは別に外国人材に米や野菜を提供する例をときどき見聞きします。

北陸のある建築会社を取材した際、社長の奥さんが実習生数人に米を5㎏ずつ渡している場面に遭遇しました。身内の田畑で採れた米や野菜を実習生に不定期に渡しているとのことでした。

2020年代に入ってさまざまな食品の価格が高騰し、特に米は2024年以降急速に値上がりしました。2025年12月現在の米5㎏の平均価格は約4,300円。仮に月に1回、米5㎏を支給すれば、外国人材にとっては給料を約4,300円追加でもらうのと同じです。米や野菜を買いに行く手間も減ります。

野菜作りのスペースを提供

地方の技能実習生を取材すると、寮や職場の庭で野菜を育てているケースをよく見ます。母国の野菜を栽培して故郷の味を楽しんだり、トマトやキューリなどポピュラーな野菜を自家栽培でまかなって食材費節約につなげたりしています。

事業者が社員食堂で低価格で食事を提供する場合などを除き、多くの技能実習生や特定技能外国人は自分でお弁当を作って勤務先に持っていきます。食事代の節約が目的です。こうした生活を送る外国人材にとって、母国と比べてもともと高かった日本の食材が2020年代に入って高騰を続け生活を圧迫していることは悩みのタネです。野菜を少しでも自前で栽培できると、彼らはとても助かります。

東北地方のある縫製会社は外国人材たちが会社の敷地で畑作をすることを認めています。彼女たちは栽培した野菜を自分たちで食べるほか、日本人の先輩たちから野菜やお菓子をよくもらうので、自分たちの作った野菜をお返しに渡すこともあります。

特定技能外国人と技能実習生計約50人が勤務する九州の農業法人では、畑の一部を外国人たちに自由に使わせ、彼らは休憩時間や勤務後、休日にさまざまな野菜を育てています。その野菜は、自分たちで消費するほか、友人・知人に売って小遣いを稼ぐこともあります。

売れ残った食品の提供

スーパーのバックヤードで数年間アルバイトをした外国人留学生に取材すると、「店で売れ残って廃棄する食品(惣菜など)を無料で持ち帰らせてもらいました。食費が浮いて助かりました」と話していました。

飲食品を販売している事業者の場合、売れ残った食品や使い切れなかった食材を廃棄するより、外国人材に無償か安値で提供すると、食品ロスを減らせますし、外国人材の生活が助かります。これによって外国人材の手もとに残るおカネが少し増えるので、やはり長期定着の一助となります。

特に、母国に少しでも多くおカネを送ろうとかつかつの生活をしている技能実習生や、学費捻出に苦心している留学生にとっては、大変助かります。

社員食堂で低額の食事

兵庫県のある食品製造工場では、毎月3,000円の定額で社員食堂のランチを毎日食べられ、ご飯のお代わりもできます。この工場では20歳前後の若い外国人材も多数働いていますが、彼らにとっては安い固定額で昼ご飯を1カ月間たらふく食べられるので、食費全体を大きく抑えることができます。

衣類の提供

ある縫製工場では、必要な商品を納品しても布が余ったときなどに、その布で余分に服を縫って外国人材に無償で提供しています。自分で買うと結構な値段の商品ですが、経営者のはからいによって無料で着ることができ、つつましい生活の中でささやかなおしゃれを楽しんでいます。

日本語学習サポート

職場で出張教師から日本語を教わる技能実習生=筆者撮影

職場に日本語教師を呼んで授業をしてもらうなど、外国人材の日本語学習をサポートしている企業もあります。意欲の高い外国人材の場合、自己負担なしで教育を受けられてスキルアップにつながるので、低賃金を補う材料の一つになります。

まとめ

このページのまとめ

・寮費や水道・光熱費、通信費を安く設定することで外国人材の手もとに残るおカネが増え、低賃金を補うことになります。

・基本給・残業代が低い場合、日本語試験合格の等級に応じた「資格手当」や「寒冷地手当」、「遠隔地手当」などの手当で補うことが有効です。

・現場への移動時間があまりにも長い場合、何らかの手当を支給している事業者もあります。

・日本人にボーナスを支給している場合、特定技能外国人にも同じ基準でボーナスを支給しなければなりません。技能実習生も含め、毎月の支給額が平均より低い場合、ボーナスで少しでも埋め合わせる努力が求められます。

・農産物の支給や野菜栽培スペースの提供、社員食堂で低価格の食事を提供といった取り組みは外国人材の生活を助け、賃金を補う効果があります。

・学習意欲の高い外国人材に対しては、日本語学習をサポートすると、費用負担なしで日本語を学べるので喜ばれます。

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