定着ノウハウ

〈外国人定着の鉄則〉外国人材から特に不人気な日本の3つの仕事文化とは?

日本人にはある程度許容されても、外国人材にとっては離職を考える強いきっかけになるような、日本の古き悪しき労働文化があります。例えば、労働者の能力・経験・専門性と職務内容との不一致は日本の経営者が思う以上に外国人材を落胆させます。また、仕事の手順に関してスタッフの提案に耳をかさないやり方や、自分の仕事が済んでも帰りにくい職場の雰囲気なども不人気です。

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ポイント解説

◎外国人材(特に高度外国人材)は「自分の能力や経験、専門性が考慮されていないポジションや職務を割り当てられた」と感じた場合、容易に転職を考える傾向があります。そのような仕事をさせる場合、理由・目的などを丁寧に説明し、十分に納得させましょう。

◎外国人材の職場定着で大事なことは「納得」です。納得を得るためのプロセスを惜しまないでください。

◎職務内容や待遇が事前説明と違っている場合も強い不満の原因になります。

◎スタッフから仕事の手順について改善案が示された場合は聞く耳を持ち、良い提案は採用し、採用しない場合も対話を心がけましょう。

◎納得して仕事をしてもらうことで、外国人のみならず日本人従業員のモチベーションや主体性も高まり、職場全体の生産性や定着率の向上につながります。

◎人材輩出諸国と日本との賃金格差が縮小し、おカネのためだけに日本に働きに来る外国人は減っています。プライベートの充実も重視されていますので、休暇を取りにくい雰囲気や自分の仕事が終わっても帰りにくい雰囲気なども職場定着の妨げになります。外国人雇用を機会に非生産的な職場慣行を全体的に見直しましょう。

◎ただし、技能実習生に関しては、残業代も含む手取り給料が業界の相場に達していることが大事です。ある程度の残業をコンスタントに確保できないと、今後、実習生の確保が難しくなります。

◆このページの内容

NG ①:能力・経験や事前説明と職務内容が異なる

能力・経験・専門性と職務内容の不一致

外国人材(特に高度外国人材)は「自分の能力や経験、専門性が考慮されていないポジションや職務を割り当てられた」と感じた場合、日本人よりも容易に転職を考える傾向があります。

例えば、下積みのつもりで本来の職務とはあまり関係のない仕事を長期間させることは、日本人にはまだある程度理解してもらえますが、外国人材の場合、「この会社は私の能力や経験、専門性を正当に理解・評価していない」と感じ、転職を考えるケースもよくあります。

外国人に本人の経験・能力や専門性とかけ離れた職務を担当させる場合、その理由・目的や今後のキャリアプランを丁寧に説明し、十分に納得を得るようにしましょう。

納得を得るためのプロセスを省かない

外国人材の職場定着のために給料以外に最も大事なことは「納得」です。給料については、その職種・その地域の平均水準を満たしていることが大事ですが、給料がやや低い場合でも、職務内容やキャリアプラン、福利厚生などを総合して本人の「納得」や「満足感」が強ければ、長期定着につながります。

しかし、本人の能力・経験・専門性と職務内容が一致しない場合は、納得が得られないケースも多いので、そのような職務を担当させる場合は、十分すぎるぐらいに説明し、本人の納得を得るようにしてください。

事前説明と実際の職務内容の不一致

能力・経験と職務内容との関係以外にも、職務内容や待遇が事前説明と違っている場合も強い不満の原因になります

技能実習生の場合、母国で説明された職務内容と違っても、転職(転籍)に制限があるため、黙って仕事を続けることも多いですが、彼らの不信や不満は大きく、失踪につながるケースも多々あります。また、仮に技能実習期間を満了しても、そのような場合は、特定技能外国人として同じ職場に残ってくれる可能性が低くなります。

技能・人文知識・国際業務(技人国)や特定技能外国人の場合、応募者は求人票や面接で仕事内容を理解しますが、実際に働き出してからその理解と実際の職務内容が違うと、「事前に聞いた内容と違う」とか「そのような職務は聞いてない」と強い不満を持ちます。

募集と面接の際に職務内容や給与について分かりやすく説明することが大事です。分かりやすく簡潔な日本語を多用し、相手が誤解なく理解できるように工夫するほか、できれば文書でも説明し、確認の署名をもらうことも一つの方法です。また、現場労働については、動画などで職務内容を事前に説明する例も増えています。

NG ②:仕事の手順について対話を受け付けない

仕事の手順についても「納得」を大切に

外国人に担当してもらう仕事の手順についても、説明や対話を心がけてください。日本社会では、決められた手順やマニュアルの通りに仕事をするように上司から指示された場合、だまって従うのが通例ですが、外国人材の中には、自分が良いと思う方法を果敢に提案する人も多くいます。経験が少ない人でも遠慮なく提案をする場合があります。こうした場合、仮に提案内容が的外れであっても、無視したり「言った通りにやりなさい」と上から押さえつけたりせず、丁寧な説明や対話を心がけてください。

外国人材が指示とは異なるやり方を提案した場合には、面倒がらずに対話をし、こちらが示した手順の方が合理的であることを納得させてください。また、相手が提案した手順の方が合理的な場合は、従来のやり方に固執せず柔軟に受け入れることも大切です。

こうしたプロセスには時間や労力がかかりますが、対話を惜しまない誠実で柔軟な姿勢は外国人のみならず日本人従業員のモチベーションや主体性も高め、職場全体の生産性や定着率を高める効果があります。

インターンの1年間で日本を見限った留学生の例

筆者は、沖縄のホテルで1年間のインターンシップを経験したベトナムの一流大学の学生に取材したことがあります。彼女は沖縄での経験で日本の職場文化が嫌になり、予定していた日本での就職をやめて母国に帰って就職しました。

その経験とはこうです。彼女が働いたホテルの大広間でセミナー等が行われる際、事前に各席にコップを配置するのですが、上司から指示された手順が非効率に思えたため、彼女が別のやり方を提案したところ、「決まったやり方に従ってください」と一蹴(いっしゅう)され、検討すらしてもらえなかったそうです。
彼女はそのとき「日本の企業で職位の低い人が提案を採用してもらうのは困難だ」と感じました。そして、ほかにも「日本で上司に意見を聞き入れてもらうには、大変な手間や労力がかかる」と感じた場面がいくつかあり、日本の職場に見切りを付けて帰国してしまいました。

NG ③:帰宅しにくい雰囲気や休暇の取りにくさなど

「帰りにくさ」など非生産的な職場環境

外国人材が日本で働く際、労働時間や休暇に関する不満を持つことケースが多くあります。

  • 労働時間の長さ
  • 帰りにくい雰囲気
  • サービス残業
  • 有給休暇の取りにくさ

「働き方改革」が進む日本ですが、このような問題の改善は諸外国に比べてまだ遅れています。

「サービス残業」が特に見られやすいのは技能実習の職場です。転籍が制限されているため、不満があっても実習生ががまんをすることが多いからです。

しかし、日本を選ぶ外国人が減少傾向にある中、そのような企業には将来、技能実習生や後継の育成就労外国人が来てくれなくなります。今は外国人相互での情報交換が盛んで、ブラック職場の噂はすぐに広まり、そのような企業の求人には応募が集まりにくい状況が既に始まっています。

特定技能や技人国の仕事でも、プライベートの時間を尊重しない職場は外国人から不評です。例えば、自分の仕事が終わっても帰りにくい雰囲気があるような職場環境は、日本の若者にも不評ですが、外国人からはさらに不評です。

外国人の多くがおカネのためだけに日本に来る時代は終わりました。人材輩出諸国と日本との賃金格差は以前よりずっと小さくなった上、東アジアの海外就労先として日本は賃金では韓国に負けています。今や、外国人が日本を選ぶ理由はおカネだけでなく、居住性や文化など他の要素にシフトしつつあります。

このため、自分の仕事が終わっても帰りにくいといった職場は「仕事以外の生活時間をどう過ごすか」に関心が強い多くの外国人材の思惑から外れることになり、良い外国人材を集めることが年々難しくなっていきます。

プライベート時間の充実が大事

このような日本の伝統的な仕事文化に関する拒否反応は外国人に限ったことではありません。「帰りにくい雰囲気」など、生産につながらない職場慣習は日本人の若者の間でも受け入れられにくくなっています。外国人雇用を機会に非生産的な職場慣行を全体的に見直すことは事業存続のためにも有益です。

不要な居残りの改善はもちろん、好きなときに有給休暇を取れる雰囲気づくりや、職務内容によってはリモートワークやフレックスタイムの導入など、従業員がプライベートと仕事を両立しやすい職場環境を整備することで、国籍を問わず優秀な人材の獲得と定着を促進することにつながります。

技能実習生にはある程度の残業も必要

ただし、技能実習生の場合、最低賃金を基準に賃金を設定しているケースが多く、ある程度の残業代がないと、彼らが必要とする収入に届きません。したがって、技能実習生に納得して働いてもらいたいのであれば(特に期間満了後にも特定技能で残ってもらいたいのであれば)、残業代も含めた毎月の手取り給料(額面給料から税金・社会保険・家賃を除いた残額)が相場に達していることが大切です。このため、ある程度の残業代や手当てを提供できない職場には、これから技能実習生や後継の育成就労外国人が集まりにくくなっていきます。

まとめ

このページのまとめ

外国人材の職場定着で大事なことは「納得」です。本人の経験・能力や専門性とかけ離れた職務を担当させる場合、その理由・目的を丁寧に説明し、十分に納得させるようにしましょう。

職務内容や待遇が事前説明と違っている場合も強い不満の原因になります。職務内容等が正しく理解されるように事前説明に気をつけてください。

仕事の手順について対話を惜しまないことも大切です。手順の改善が提案された場合は聞く耳を持ち、良い提案は採用しましょう。

納得して仕事をしてもらうことで、外国人のみならず日本人従業員のモチベーションや主体性も高まり、結果として職場全体の生産性や職場定着率も上がります。

人材輩出諸国と日本との賃金格差が縮小し、おカネのためだけに日本に働きに来る外国人は減っています。プライベートの充実も重視されていますので、休暇を取りにくい雰囲気や自分の仕事が終わっても帰りにくい雰囲気などは定着の妨げになります。

ただし、技能実習生に関しては、手取り給料が相場に達していることが大事なので、ある程度の残業(または手当て)を提供できないと、今後、実習生や育成就労外国人の確保が難しくなります。

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